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エピソード:声楽授業(9)ローマ編(ピエルヴェナンツィ先生の初レッスン) [ L.Magiera著:RR]

8月12日の記事の続き。ルッジェーロが、18か19才(1959年ー1960年)頃の話です。バリトンのタッデイが紹介してくれたピエルヴェナンツィ先生の初レッスンの続きです。

ピエルヴェナンツィは、数分間だまって彼をじっと見つめていました。神の啓示を待っているように それから、彼に、だしぬけに命じました。
「さあ、"Folgore,Morte!"を歌いなさい。」と言いながら、こぶしで"シ♭"の鍵盤を激しく叩きました。(参考:楽譜下)
ルッジェーロは立ち上がって、大きく息を吸って、ヴェナンツィ先生がびっくりして一瞬口が聞けなくなるくらい"ファ"を思いっきり響かせました。
「なかなかのパンチだ、悪くない、悪くないよ。ペッピーノ・タッデイは、君が有望だと言いたくて君を寄越したようだな。ところで、これから電話をかけるから、受話器に向かってあの"ファ"を繰り返してもらってもいいかな?」
「はい、ご希望でしたら」
「ちょっと待って、ダイアルするから、それでは、"シ♭"からスタートして!」
ルッジェーロは、"Folgore,Morte!"を繰り返しました。
「プリ、私の生徒の声、聴こえてるかな? 君のキャリアの中でも、この"Folgore,Morte"をここまでうまくできたことはなかったんじゃないの!」(電話の相手は、プリニオ・クラバッシだけど、彼が君のことを褒めてるよ)と、ルッジェーロに小声でささやきました。
二人の間で他の何か話をして、やっと、ピエルヴェナンツィは電話を切って、レッスンを始めることにしました。

「さあ、それでは"ヴォカリッツィ(母音唱法)"を聞かせてもらおうか、たっぷり豊かな声と非常にレガートで」ルッジェーロは、従順に繰り返しました。
「もっとゆるやかにアダージョで、特に"Eleonora"の部分を」
「こうですか、先生?」
「すばらしい。さあ、半音上げて」ルッジェーロは、繰り返しました。
半音ずつ、低音の"ファ"まで徐々に再び下降して高音の"ファ♯"まで行きました。
1時間もの間、ルッジェーロは、この拷問に耐えました。やっとピエルヴェナンツィは彼に言いました。

「それでは、今から君のレパートリーのどのアリアでもいいから歌ってみなさい」
ルッジェーロは"Ella giammai m'amo"を選びました。このアリアは、呼吸の持続にいくつかのちょっとした問題を感じていたのですが、驚いたことに、その欠点がなくなり、声は最高のふつうの容易さで流れ出たのです。ルッジェーロにはこの"母音唱法"が魔法使いのように思えましたし、先生が奇跡を起こしたように感じました。
ピエルヴェナンツィは、彼が驚いているのを見抜いて、言いました。
「もっとうまくい方法を教えるからよく聞きなさい。レッスンに来る前に、30 分この練習をしなさい、いつも最大に横隔膜を支えながら、そして、とてもゆっくりで、広がった声で実行しなさい。それから、バスに乗って、ここに来ます。わかったかな? そして、いつも言葉はもちろんElena,Elena....Eleonora...だからね」
「わかりました、マエストロ」 ー続くー

ついでの話:
"母音唱法"は、ヴォカリッツィといって、声楽の基礎訓練には欠かせない重要なもののようですが、皆さん、一様に死ぬほど退屈でつまらないものということで、一致しているようです。最初のギバウド先生の時も、先生が、本人が面白くやれるように工夫していたようです。ヴェナンツィ先生のところでは、「1時間も拷問に耐えた」ということですので、ルッジェーロ君も自覚ができてきたというか大人になったということでしょうか。 この本を読む限りでは「Elena,Elena....Eleonora...」はピエルヴェナンツィ先生独自のもののような感じがします。

注)"Folgore,Morte!":アイーダ 1幕2場 ランフィス
◇プリニオ・クラバッシ:Plinio Clabassi 1920-1984.10.22 [イタリア]バス


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コメント 6

euridice

わけが分かりませんけど、声楽事始めの、退屈さ、つまらなさが
よっくわかります。低声歌手さんは、ヘ音記号の楽譜なんですね・・・
by euridice (2005-08-18 17:22) 

Sardanapalus

>受話器に向かってあの"ファ"を繰り返してもらってもいいかな?
電話の相手の困り顔が見えそうです(^_^;)

>それから、バスに乗って、ここに来ます。
あはは、バス以外で来ちゃいけないんでしょうか?(笑)ヴェナンツィはいちいち言うことが面白いです~。本当にちょっと変わった先生だったのですね。でも、指導はきっちり、効果も抜群!これからライモンディ青年はどうなるのか!?楽しみに読んでいます。
by Sardanapalus (2005-08-18 18:55) 

この楽譜、画像で載せてあるんですか?すごーい。分かりやすいです。
バスの音域だと、ファのあたりが最高音?ですか?
っていうか、ランフィスってこんなトコまで声出してたんだ~。
えれーなえれーな、えれおのーら・・・これほんとに効くのかな!(^^)!ライモンディがそうやって練習してたって考えながら歌ったらつまらないどころか面白いかも。
>>低声歌手さんは、ヘ音記号の楽譜なんですね・・・
わたし、テノールの楽譜の音域、書いてあるのを鵜呑みにして、あの五線を飛び出したハイCを歌ってるんだと信じてました(笑)でもどう聞いても低く野太く聞こえるから気持ち悪かった(笑)一オクターブ上に書いてあるんですね^^;
by (2005-08-18 22:40) 

Aki

Vocalizzi って、準備運動というか、一種のチューニングのようなもので、
レッスンに行っても調子の悪いときは長々といろんなのをやらされるし、
調子のいいときは3音階ぐらいやっただけで、「じゃ、曲やろう」ってことに
なります。 これキライなひとが多いですが、やるとやらないでは雲泥の差
なんです。喉を開け、横隔膜を開き、副鼻腔に抜くためには不可欠のようです。
だから効果的なVocalizziの後でアリアを歌ってうまくいくのはさもありなん!
 しかし・・・二十歳にもならない若造が、寝取られ老王フィリッポのアリア
ですか・・・(^^;) んっとにもぉ~!RRったらマセてたんですねえ! 
by Aki (2005-08-18 23:09) 

keyaki

>>edcさん、分けわかんなかったですか?私もですけど。
つまり、ヴェナンツィ先生は、将来大物になりそうな生徒が現れたんで、自慢したかったんじゃないかしら。
電話の相手のプリ君、バス歌手で当時は中堅どこで活躍してたわけですよね。
プリ君、当惑したでしょうね、(^_^;)Sardanapalusさん!
でも、タッデイも変わり者の先生と言ってますから、「またかよ」だったかもですね。

>Sardanapalusさん
ヴェナンツイ先生のお宅は、ローマはローマでも城壁の外のようですから、交通手段はバスだけなんでしょうね。
でも、こういうところが、いかにもイタリア人なんですよね。

>>Akiさん
声楽をやっている方だと、うんうんそうだよってとこなんでしょうね。
この本は、フレーニの元旦那でボイストレーナーで、指揮者でピアニストのマジエラ氏が書いてるんですね。それで、訳してませんがテクニック的な記述もたくさんあるんですよ。
このvocalizzoについては、「私は、こんなvocalizzoは(多分変なという意味もあるのかも)私の生徒達にはやらせたことはない、vocalizzoについての詳細は、フレーニとパヴァロッティの本に詳しく書いてあるのでそれを見てね。でも、ヴェナンツィとライモンディの"奇跡のvocalizzo"を奇跡的効果があるかもしれないからやってみたいと思ってる人は自由にやってみてね・・・」とかで、記事に載せた楽譜が書いてありました。

>んっとにもぉ~!RRったらマセてたんですねえ! 
だって、13才で、"クレド"が鼻歌だったんですから(笑)

>>りょー さん
この楽譜は、前にトスカの記事でご紹介したサイトから拝借してきました。(赤の下線は、私が書きました)
オテロもありますよ。アドレス貼っておきますから、ブックマークつけておくといいですよ。
http://www.dlib.indiana.edu/variations/scores/scores.html
by keyaki (2005-08-19 10:39) 

ありがとうございます^-^
ヴェルディのは、CDシートミュージックっていうシリーズの、ヴェルディオペラ全部の全曲の楽譜(ピアノ伴奏のスコアですが…ドン・カルロなんかは4幕版5幕版両方入ってるし!)が入ってるCD-ROMを買って^-^;持ってるんですけど、このサイトにはプッチーニとかもあるのが嬉しいです♪それに、gifファイルなので、編集しやすくっていいですね、pdfファイルの編集の仕方が良く分からないので…。
by (2005-08-19 17:52) 

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