SSブログ

2000万円のオペラ歌手......って何のこと?  [オペラの話題]

 検索ワード「2000万円のオペラ歌手」...なになに?と興味をひかれて逆検索してみました。いっぱい出て来ました.....なんでも「ジョブチューン ~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!」というテレビ番組があって、それに中丸三千繪(1960.7.24 - )が出演して、「ワンステージ2000万もらったことがあるとか、年間160公演舞台に立った」とかの発言があったそうです。ほとんどの視聴者がオペラのオの字も知らないし興味も無い方々のようで、「オペラ歌手ってもうかるんだ....」と素直な感想をもったようです。こういう特殊なケースを一般化するような番組作りはいかがなものかと思います。
 さて、中丸三千繪は、私も名前は知っていますが、今も現役だとは存じ上げませんでしたし、自称?にしても「日本が誇る世界のディーヴァ」はいくらなんでもあり得ないでしょ.....「1987年イタリアに渡り、ミラノ・スカラ座と出演契約を結び、各地の名門劇場で主役を務めた。」ちょっとまとめ過ぎでしょう。本当のオペラ歌手にとっては、どこの劇場でいつなにを歌ったか、特に、劇場デビューとロールデビューは重要なキャリアですから、必ず明記します。それを「ミラノ・スカラ座と出演契約を結び、各地の名門劇場で主役を務めた。...」はないでしょう。

 さて、野次馬根性発揮して、面倒くさいけど、ちょっと調べてみました。まず、スカラ座ですが、研修生かなにかだったのか、親の財力をいかしたのかどうか分かりませんが、はい、はい、ドミンゴと同じ舞台に立ってますよ。スカラ座のアーカイヴスから、書いてもしょうもない端役ですけど、一応
1.コンサート「交響曲第2番ハ短調 復活」:カプラン指揮 1990年10月1日
2.オペラ「スペードの女王」:1991年12月26日 小澤征爾指揮、フレーニ主演
 7公演の内最後の1公演にポスターにも書かれない小さい役。オペラ歌手のキャリアは小さい役からなんで、いいんですけど。
3.オペラ「パルジファル」:1991年12月7〜29日(9公演) ムーティ指揮、ドミンゴ、マイヤー
 第二グループの花 の乙女(写真下左)、すご〜い開幕公演ですよ。その後の飛躍が期待されますが...
4.オペラ「オベロン」:1993年5月14〜27日 (8公演) コンロン指揮
 水の精 (写真下右)二人の内の1人

Nakmaru_2.jpgNakamaru_1.jpg

 以上がスカラ座、結局、小さい役しかもらえなかった....ってのが真相。

「各地の名門劇場で主役を務めた」の件
 「主役を努めた」のが事実かどうかは分かりませんが、1991年10月ボローニャ歌劇場でガッティ指揮、ルッジェーロ・ライモンディ主演の「モゼ Mosè」でアナイデを歌っています。これは重要な役です。記事はこちら。1996年1月にローマ歌劇場で、ダニエラ・デッシーとホセ・クーラ主演の「イリス」に小さい役(芸者)で出てます。これくらいしか分かりません.....まあ、「世界のディーヴァ」だったことは過去も現在も無いってことです。

「年間160公演」の件
これはオペラ歌手ではあり得ないことです。コンサートを含めても60公演でも働き過ぎと言われる世界ですし、移動日、リハーサルを考えれば、年間160公演は不可能です。演歌歌手の所謂どさ回りなら有りかもしれませんが。

「ワンステージ2000万」の件
どういう話の流れで出た金額なのか分かりませんが、当ブログでもオペラ歌手のギャラに関する記事がありますので、こちらにその部分だけを転記します。

・パリ、ロンドン、NYメトは、歌手のギャラは最高ランクで1公演同一ギャラ1晩税込み15000ドル。中堅歌手は、1晩5000-1万2000ユーロ。端役は1晩1000ユーロ以下。12年前から固定されたまま、1文の上乗せもなし。航空券、ホテル代など滞在費は歌手負担。(2010年10月仏フィガロ紙)
・スペインは他の国よりギャラがいいと主役級オペラ歌手が話していたが、今は経済危機でそんなことはないと思う。
・スカラ座は名誉はあるがギャラはよくないというのが通説。
・世界の主要劇場では、お互いに協議して歌手のギャラを決めているが、以前は、こうした約定破りをするのはイタリア劇場で、しかも袖の下がプラスされていた。(2010年10月仏フィガロ紙)
・歌手にとっては収入上乗せの道は、ディスクとリサイタルを重ねることしかない。リサイタルは民間プロデュースが大半のため、市場論理でギャラが決まり、歌手により1晩3万―20万ユーロ。(2010年10月仏フィガロ紙)

 ということで、「ワンステージ2000万」がオペラの公演なのか巨大会場でのコンサートなのか不明なので、何とも言えませんが、少なくとも中丸三千繪クラスでは眉唾。本当のオペラ歌手は、もうからないというのが相場です。「以前はイタリアでは袖の下」もあったそうですが、これは集客力のある人気歌手の場合でしょ。Il Divoのメンバーになる道もあったけど、オペラを選んだヴィットリオ・グリゴーロが「大金を失ったと思います。でも、多大な尊敬を得ました。これはお金では買えないものです」なんて言ってます。

 パリ在住の助六さんのコメントからロベルト・アラーニャの2010年10月仏フィガロ紙のインタビューを転記します。とても具体的で興味深いです。アラーニャは、9月に東京ドームで「アイーダ」に出演予定ですが、「10万ユーロもらえる」んでしょうね。パリ国立歌劇場の出演をキャンセルしてはるばる極東に来るわけですから....子供ができたりでお金もいるんでしょう。
ロベルト・アラーニャ談:
『恵まれてるけど、皆が考えてるほど金持ちじゃ全然ないよ。スイスに住んでるけど、税金はフランスに払ってる。実業家じゃないから財産の正確な額はわからない。
ギャラ公演では1晩6万ユーロもらう。カネが要るときはアブダビや日本に行くね。10万ユーロもらえる。ディスクの著作権料は1枚につき25セント・ユーロ。DVDやオペラの映画館中継はノーギャラだよ。
オペラのギャラは1晩税込み1万3000ユーロだけど、結局何も残らない。半分は税金、後の半分はマネージャー代と必要経費で消えちゃう。ロンドンにはカルメン2公演(これは多分間違い)のため1ヵ月半いた。コヴェント・ガーデン近くのマンション借り賃が週1500ポンド。助手が料理と洗濯をしてる。
ロンドンではカルメン出演の同僚も同じ建物に泊まってて窓越しに挨拶したり家族みたいで快適だった。僕の唯一の贅沢は住み心地の良い場所を見つけること。ニューヨークでは本当に大変で、メトのギャラは全部経費で消えちゃう。
稼いだ分は自分が愛着のある芸術プロジェクトに回し、また自分の家族や友人の面倒もみてる。自分のためには何も使わない。
29歳で最初の妻のフローランスに死なれてから、物質的財産に興味はない。でも大学入学資格試験に通ったばかりの17歳の娘オルネッラのためには何かしてやりたい。
EMIを辞めたとき、協力者と一緒に自分の録音カタログを80万ポンドで買い取った。預金とシチリア・アルバムの著作権料前借りでまかなった。娘に残してやるためだけど、マイケル・ジャクソンとは桁違い。クラシックのディスクは世界中で2万枚売れれば良い方だからね。』

関連記事:
マルセロ・アルバレス(ラダメス・ロールデビュー)のインタビュー(2010.4.23):オペラ歌手のギャラについても一言...
オペラ歌手「使い捨て」? 自己責任?(朝日新聞記事に関連して2007.9.8夕)
ニューヨーク・タイムズにヴィットリオ・グリゴーロの(センセーショナルな)紹介記事(2010.10.14)
nice!(0)  コメント(14)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

ジョセフ・カレヤのスカラ座来日公演のキャンセルは4月には決まっていたのでは.....薮の中 [スカラ座事件]

 Calleja_13-07.30Scala.jpg
 スカラ座引越公演の「リゴレット」で公爵を歌うはずだったジョセフ・カレヤがキャンセルしました。日本の皆さんにお知らせがあったのは7月30日、同時に代役が発表されていますので、カレヤのキャンセルが実際にいつだったのかは分かりません。NBSからのお知らせとスカラ座からの声明文(右の画像)の訳はこちら。カレヤからのメッセージはありませんので、スカラ座からの声明だけでは何が何だかさっぱり分かりません....単なる双方の認識のずれなのか、本当にカレヤの契約違反なのか.....
 野次馬根性でちょっと調べてみました。カレヤのスケジュールはこんなかんじです。

8月24日(土):Prinsengracht - Concertgebouw
9月5日(木):BBC Proms/Verdi arias - Royal Albert Hall
9月9日(月):東京/スカラ座「リゴレット」キャンセル
9月7日(土):BBC Proms in the Park
9月13日(金):東京/スカラ座「リゴレット」キャンセル


 つまり、ロンドンのプロムスをとるか日本に来るか.....両方は無理、でもハイドパークで開催されるラストナイトのコンサートをキャンセルすればなんとかなるんじゃないの....だってお祭り騒ぎのコンサートですからカレヤが欠場しても問題ないでしょう...でも、恐らく彼は、ポップ歌手さんたちとポップを歌いたいんでしょうね。カレヤは、4月18日にプロムスのスケジュール発表があって、翌日の4月19日に自身のホームページのNewsの欄に"Joseph returns to the BBC Proms this September"と書いています。この時点で、すでに彼の眼中にスカラ座日本公演はなかったということなんですが、スカラ座にしてもオペラのキャスト変更は日常茶飯事だしカレヤにこだわる理由もないと思いますが、今や売れっ子のカレヤのことですから、NBSからのたっての希望だったんでしょうか。

 実は、カレヤはまだスカラ座デビューを果たしていません。2月11日にスカラ座デビュー(コンサート)するはずでしたが、多分体調不良で逃しています。記事はこちら "Chailly senza il tenore /La Scala priva di voce"。スカラ座が主張している様に本当にカレヤの契約違反であれば、当分スカラ座には出られないと思いますが、どうでしょう.....案外お互い話がついていたりってこともありますね。

関連記事:
ジョセフ・カレヤのニューアルバムから「アリヴェデルチ ローマ」
新国《愛の妙薬》2010.4.15 カレヤがネモリーノ
新国立劇場《愛の妙薬》リーフレット 石戸谷 結子のエッセイ読んだ人いますか.....添削しましょう....
nice!(1)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。