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エピソード:声楽授業(8)ローマ編(ピエルヴェナンツィ先生) [ L.Magiera著:RR]

8月9日の記事の続きです。18か19才(1959年ー1960年)の頃の話です。
サンタ・チェチリア音楽院を勝手に自主退学したことを、しばらくの間、両親に知らせることを躊躇しました。
父がそれを知ったら激怒すると思ったからです。(そりゃ、当然でしょ)

「しかし、どうして、世界的に有名な合奏団"Virtuosi di Roma"の指揮者レナート・ファザーノと口喧嘩なんかするんだ!」
ルッジェーロは、ペディコーニ先生が、個人レッスンをしてくれることを希望しましたが、高齢のシニョーラは、年齢的にも責任が持てないので、引き受けることはできないということでした。

そうしている間も、ルッジェーロは、オペラ劇場のリハーサルに頻繁に出入りしていました。ある日、劇場の平土間の客席で、ジュセッペ・タッデイに再開しました。このジェノヴァ出身のバリトンは情愛を込めて彼を抱きしめました。彼は、ミラノ時代からルッジェーロに親身になってなにかと力になってくれていたのです。
「どうしたの、まだ先生が見つからないの?」とタッデイは、ファルスタッフの口調で尋ねました。
「そいじゃ、ピエルヴェナンツィのところに行ってみたらどう。かなり風変わりで奇抜なタイプだけど、まあ、感じは良いよ。特に横隔膜の強化に良い結果が期待できるはずだヨ。だけど、かなりの高齢なんで、まだ生きているどうかだな! ちょっと待って、電話番号があったはずだけど。」そして、タッデイは、劇場の暗やみの中で、カバンの中の手帳のページをめくって探しました。
「ああ、これこれ、見えるかな、、、」ルッジェーロは、電話番号を写しました。
「僕の紹介だと言って、頼んでみなさい」とタッデイは付け加えました。

ルッジェーロは、ローマの新しいペンションから、電話をかけてみました。
ベルが鳴った後、姓と名前を言うことを命じる大声が聞こえてきました。
「ライモンディ?誰?」ぶっきらぼうな応答でした。
「ジャンニじゃなければ、知らない。さようなら、ごくろうさん.....」
「ちょっと待ってください! タッデイ、ペッピーノ・タッデイ 有名なバリトンのタッデイの紹介なんです。」ピエルヴェナンツィは、穏やかな口調になりました。
「ああ、というと何の用かな? レッスンしてほしいって? いいですよ、じゃあ明日の夕方、チプレッシ通り41番地に来なさい」返事をする間もまく、電話が切られました。

ピエルヴェナンツィは、本当に変ったタイプのマエストロでした。
マエストロは、ルッジェーロをソファーにくつろがせて、それから、ピアノに向かって最も有名なテノールのレパートリーのアリアのいくつかのフレーズを披露しました。どの様なものかというと"Che gelida manina"の最後のフレーズと"A te o cara""ド#"のフレーズ、そして、"Vincerò"を即興でまとめたものでした。(つまりハイCの部分をまとめたということかしらね)
その時はもう、芸術家の心理状態をとてもよく心得ていたルッジェーロは、それにふさわしい評価をすることに心を配りました。ピエルヴェナンツィ先生は、とてもご機嫌でした。
「僕の年、いくつだと思うか、ちょっと言ってみてくれる?」
「70才ですか?」
「80才過ぎだよ、ragazzo。驚いたかね?」
「確かに驚きました、奇跡のようです」
ルッジェーロは、父チェーザレから特に年配の人には礼儀正しくすることを厳しく言われていましたし、レッスンを引き受けてもらえるかどうかのオーディションに来ているわけですから、老翁ピエルヴェナンツィに感じよく見られたいと思いました。ー続くー
(こういう変わり者のおじいちゃん教師っていますね)

◇ジュセッペ・タッデイ:Giuseppe Taddei 1916.06.26- [イタリア]バリトン
◇アルベルト・リナルド:Alberto Rinaldi 1939.06.06- [イタリア]バス- バリトン
◇レナート・ファザーノ:Renato Fasano 1902.08.21-1979.08.03 [イタリア]指揮者
            "Virtuoso di Roma(ローマ合奏団)"の指揮者として有名
            当時はサンタチェチリア音楽院の学長でもあった。

参考)
”Che gelida manina”ボエームのロドルフォのアリア 3点ド
”A te o cara”清教徒 一幕アルトゥーロのアリア 3点ド#
"Vincerò"トゥーランドット カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」の最後 3点レ


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