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新国《タンホイザー》鑑賞:2007.10.17 [オペラ生舞台鑑賞記録]

 新国立劇場10周年、2007/2008シーズンオープニング・ニュープロダクション《タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦》に行ってきました。主婦にやさしい午後2時開演、昼下がりのオペラでございます。しかし、ワーグナーのせいか、主婦より、年配の男性が多かったように思います。
 《タンホイザー》といえば、「夕星の歌」と「入場の行進曲」をしっているくらいで、生舞台は初めてです。映像では、NYメトのエヴァ.マルトンがエリーザベトで、ヴェーヌスがタティアナ・トロヤノス、ヴォルフラムがベルント・ヴァイクルのLDを見た記憶があります。最近見たのが、チューリヒのおかしな、おかしな、映像の《タンホイザー》で、タンホイザーのザイフェルトは、銀行員か中小企業の社長風、その他の男の歌手さんたちも、そのまま電車に乗っ帰っていいような格好でした。こういう斬新な演出より、初心者にも理解可能な演出希望でしたが、その希望はかなえられました。
 序曲。幕が開くと、荘厳で力強い序曲に合わせて下から巨大な半透明の柱が次々せり上がって来ます。演出のハンス=ペーター・レーマンは、2004年の《エレクトラ》に続いての演出だそうですが、そういえば、エレクトラも巨大な箱状の建物が最後に沈んで行きましたっけ.....この巨大な半透明の柱の位置を変えて、照明で変化をつけ、舞台奥に映像を写すというすっきりシンプルな舞台装置、衣装も、舞台同様にアースカラーというのでしょうか、とても落ち着いた色合いで、簡素な中世風衣裳でした。
 1幕、ヴェーヌスベルクの場面。ど迫力のヴェーヌス、おや、カバリエ様!.....おぉ、これではタンホイザーもメロメロ、というわけでもないでしょうけど、苦悩するタンホイザーでした。ボンネマですが、明るい声で、よく響いてました。途中でちょっと睡魔に襲われましたが、ヴォルフラムのガントナー登場で、目が覚めました。
 2幕、ワルトブルグ城内。エリーザベトが、駆け込んで来た途端、舞台がパッと明るくなりました。容姿も立ち振る舞いも美しく、歌唱も安定していて文句無し。歌合戦の場面では、ヴォルフラムやヴァルターの貞淑清純な理想の愛の歌を聞いている時のタンホイザーの様子が、なかなか面白い、他の騎士たちは、ピシッとしているのと対象的、君たちわかってないね...という様子がありあり、ついに、ヴェーヌスベルグにいたことを自ら暴露してしまうという、ちょっと子供っぽいタンホイザー君にピッタンコのボンネマでした。
 3幕ワルトブルグ山麓。感動、感動でした。エリーザベトがグレーのベールを頭からかぶり、ゆっくりと、本当にゆっくりとした足取りで去って行く、その後姿にヴォルフラムが、「お送りさせて下さい」と声をかけますが、だまって、しかしはっきりと拒絶して去って行くんです、そして、ここでやっと「夕星の歌」、祈るように歌います。「ローマ語り」も圧巻でしたし、男声合唱の素晴らしかったこと....ワーグナー初心者には、基本を押さえたいい演出でした。(今回は2階正面、1階の舞台の近くで見たかった....)


歌手さんへの一言コメントと略歴(新国サイトから)
♪アルベルト・ボンネマ Albert Bonnema(タンホイザー):
純粋、素朴、損得勘定のできないタンホイザーを好演。音程が不安定なんだそうですが、1幕はそんな感じもしましたが、「ローマ語り」は惹き込まれました。
■オランダのフリースランド生まれ。1996年ネザーランドオペラにおいて「マイスタージンガー」ヴァルター役の成功で注目を集める。その後、オランダ・フェスティバル「フィデリオ」フロレスタン役、イスラエルオペラ「魔弾の射手」マックス役などに出演。1997年にはリンツ州立劇場で「ローエングリン」タイトル・ロールに出演。カールスルーエ州立劇場でのヴァルターでは大成功を収めた。近年では、2004年にベルン・オペラにおいて「タンホイザー」タイトル・ロール、2005年シュトゥットガルト州立歌劇場、2007年ケルン歌劇場において「神々の黄昏」ジークフリートに出演している。
新国立劇場には、1997年「ローエングリン」タイトル・ロールに続いて2回目の登場。

♪リカルダ・メルベート Ricarda Merbeth(エリーザベト):
ポートレート写真の方が良くて、実際に見てがっかりというのが普通ですが、どうしちゃったんでしょう、美しく清楚で毅然としたエリーザベトその人でした。くせのない美しい声、さすがバイロイトの常連です。
■ドイツのケムニッツ出身。「タンホイザー」エリーザベトは主要なレパートリーとして、バイロイト音楽祭に度々同役で出演、また「ニーベルングの指環」フライア、ゲルヒルデ/ヘルムヴィーゲ、グートルーネに出演している。その他の主なレパートリーとして、「ラ・ボエーム」ミミ、「フィガロの結婚」伯爵夫人、「エウゲニ・オネーギン」タチアーナ、「ホフマン物語」アントニア、「魔弾の射手」アガーテ、「マイスタージンガー」エーファ等がある。
2006年「コジ・ファン・トゥッテ」フィオルディリージに続いて2回目の登場。

♪リンダ・ワトソン Linda Watson(ヴェーヌス):
太っているというよりはグラマーで、迫力のあるヴェーヌスでした。
■アメリカ生まれ。「ニーベルングの指環」のブリュンヒルデをはじめ、「ローエングリン」「タンホイザー」等のワーグナー作品を主なレパートリーとして、世界中で活躍している。今までに出演した主な歌劇場は、バイロイト祝祭劇場、ワシントン・オペラ、ミラノ・スカラ座、パリ・シャトレ座、アムステルダム歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場等が挙げられる。2006年バイロイト祝祭劇場で「ニーベルングの指環」ブリュンヒルデで出演して、絶賛を博した。
2002年「ワルキューレ」ブリュンヒルデに続いて2回目の登場。

♪ハンス・チャマー Hans Tschamer(領主ヘルマン):
新国では、ドイツものに欠かせないバス、見た目も声も役柄にピッタリ。
■ドイツ生まれ。今までに出演した主な歌劇場は、バイエルン州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ベルリン州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、バイロイト祝祭劇場、ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場等があり、参加した音楽祭は、ザルツブルク音楽祭、ザルツブルク・イースター音楽祭、ブレゲンツ音楽祭等が挙げられる。ライン・ドイツ・オペラに14年間在籍し、キャラクター・バスも歌えるバスとして活躍。同劇場には現在でも頻繁に客演している。ライン・ドイツ・オペラ時代には、特にワーグナーのレパートリーで活躍した
2001年「ラインの黄金」ファゾルト、2005年「フィデリオ」ロッコ、同年「ニュルンベルクのマイスタージンガー」ポーグナーに続いて、4回目の新国立劇場登場。

♪マーティン・ガントナー Matin Gantner(ヴォルフラム):
「マイスタージンガー」では、梯子を持って歩くベックメッサーが印象的でしたが、今回のヴォルフラムも秀逸でした。
■ドイツ・フライブルク生まれ。カールスルーエ音楽大学で学ぶ。89年「フィガロの結婚」アルマヴィーヴァ伯爵でデビュー。以来「魔笛」パパゲーノ、「ウェルテル」アルベルト、「スペードの女王」エレツキー侯爵、「タンホイザー」ヴォルフラム、「セビリアの理髪師」フィガロ、「ラ・ボエーム」マルチェッロなどをレパートリーとして、ミラノ・スカラ座、バイエルン州立歌劇場、ザクセン州立歌劇場など著名な歌劇場に出演を重ねている。2005年バイエルン州立歌劇場の宮廷歌手 Kammersängerの称号を贈られる。
《マイスタージンガー》のベックメッサー、《ドン・カルロ》ロドリゴに続き新国3回目の登場。

♪リチャード・ブルンナー Richard Brunner(ヴァルター):
アメリカ生まれ。幅広いレパートリーで、世界中の劇場で出演した経歴を持つテノール。特にワーグナー作品に関しては定評があり、1989年にはバイロイト音楽祭に「パルジファル」タイトルロールでデビューを飾り、その後10年間、同音楽祭に出演している。これまでに出演した主な劇場は、ウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、ワシントンオペラ、ハンブルク州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ベルリン・コーミッシェ・オーパー等があり、主なレパートリーは「ニュルンベルクのマイスタージンガー」ヴァルター・フォン・シュトルツィング役、「タンホイザー」タイトルロール、「さまよえるオランダ人」エリック役等が挙げられる。
2004年「エレクトラ」エギスト、2005年「ニュルンベルクのマイスタージンガー」シュトルツィングに続いて、3回目の新国立劇場登場。
【指 揮】フィリップ・オーギャン
【演 出】ハンス=ペーター・レーマン
【衣裳・美術】オラフ・ツォンベック
【照 明】立田 雄士
【振 付】メメット・バルカン
【舞台監督】大澤 裕

【芸術監督】若杉 弘

【特別協賛】東海旅客鉄道株式会社
【協 力】日本ワーグナー協会
【主 催】文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場   
キャスト
【領主ヘルマン】ハンス・チャマー
【タンホイザー】アルベルト・ボンネマ
【ヴォルフラム】マーティン・ガントナー
【ヴァルター】リチャード・ブルンナー
【ビーテロルフ】大島 幾雄
【ハインリッヒ】高橋 淳
【ラインマル】小鉄 和広
【エリーザベト】リカルダ・メルベート
【ヴェーヌス】リンダ・ワトソン
【牧童】吉原 圭子
【4人の小姓】佐藤 泰子、金子 寿栄、中道 ゆう子、熊井 千春

【合唱指揮】三澤 洋史  【合 唱】新国立劇場合唱団
【バレエ】牧阿佐美バレエ団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

フィリップ・オーギャン Philippe Auguin(指揮)
フランス生まれ。ニュルンベルク州立歌劇場、ハンブルグ州立歌劇場を中心に世界各国で活躍。ワーグナー作品を特にレパートリーとしている。2005年10月に国際北京音楽祭でのニュルンベルク州立歌劇場による「ニーベルングの指環」チクルス公演の指揮は絶賛された。またその他のレパートリーとして、「ばらの騎士」、「アルジェのイタリア女」、「オテロ」、「ラ・ボエーム」、「カルメン」、「タンホイザー」、「エレクトラ」、「アラベラ」、「仮面舞踏会」、「ローエングリン」、「ファルスタッフ」、「さまよえるオランダ人」、「サロメ」がある。今まで出演した歌劇場は、バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ドレスデン州立歌劇場等が挙げられる。新国立劇場初登場。
ハンス=ペーター・レーマン Hans-Peter Lehmann(演出)
ドイツのカッセル生まれ。1960年から73年までバイロイト祝祭劇場でヴィーラント・ワーグナー及びヴォルフガング・ワーグナーの助手を務める。1980年より2001年までハノーヴァー州立歌劇場総監督を務める。01年よりフリーの演出家として活躍。今までに「ラインの黄金」、「ワルキューレ」、「トリスタンとイゾルデ」、「リゴレット」、「魔笛」、「仮面舞踏会」等を演出している。
2002年「ナクソス島のアリアドネ」、2004年「エレクトラ」に続いて、3回目の新国立劇場登場。
※略歴は新国サイトから


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euridice

とっても分かりやすくまとめてあって、特にこれから行く場合は参考になると思います。やっぱり新国サイトの写真より、実物が良かったとつくづく思います。プロが撮ってるんでしょうにねぇ・・不思議。

>君たちわかってないね...
これを感じるタンホイザーって、意外にないかも・・ 実演2度目なんですけど、1度目はいわゆる見切れ席だったせいもあると思いますけど、全然感じませんでした。映像も各種見ましたが、これはぼ〜〜と見てたとか、映し方の問題があるでしょうけどね。

歌合戦参加の貴婦人方が、タンホイザーの歌に顔をそむけるといった動作は普通ちゃんと演出されてたような気がしますけど。

>エレクトラ
同じ演出家だったんですね・・ これにもいたく感動したものです。もう一度見たいです。再演ないですね。

やっぱり役に合った歌手じゃないと、いい演出も良さが半減どころか・・だと思いますから、むずかしいものです。

TB、ありがとうございます。私のもTBしましたので、よろしくお願いします。
by euridice (2007-10-19 07:18) 

Sardanapalus

さすがkeyakiさん、楽しいだけでなく読み易くて分かり易い記事ですね。一気に読んじゃいました!

>君たちわかってないね...
ここでこういう反応してくれると嬉しいですね。直後に「ヴェーヌスベルクへ行け!」となるストーリー展開も素直に理解できますし。確か、ハンブルクの来日公演のテレビ放送でも、騎士達を小馬鹿にするタンホイザー(コロ)が映っていました。私が実演を見たバイエルンの演出では、馬鹿にすると言うよりイライラしているタンホイザーという描き方だったように思います。こちらは真面目路線ですね。どちらかというと前者の演出の方が、騎士達がタンホイザーにあれほど激高するのも頷けます。
by Sardanapalus (2007-10-19 21:31) 

ガントナーのヴォルフラムはよかったですねー。
by (2007-10-19 22:56) 

おさも

ハンス・チャマーはめっちゃええ声です!
by おさも (2007-10-20 14:55) 

けい

いつぞやさまよえるオランダ人の公演でこちらのblogにおじゃました。
私は、本日フィガロの結婚を観ました。良かったです。
明日 タンホイザーです。色々参考になりました。楽しみです。

私も合唱程度しか知らないのに行くのです。
by けい (2007-10-20 21:10) 

keyaki

みなさんコメントありがとうございます。
 
edcさんの「新国タンホイザー鑑賞前に」のペーター・ホフマンの話の中にある、「彼の倦怠感を追体験できる....珍味もまた苦痛となる」のくだり、今回のタンホイザー君はけっこうそんな感じでしたね。

Sardanapalusさん
バイエルンの来日公演のキーンリーサイドのヴォルフラムも評判でしたね。もう2年も前になるんですね。

gonさん、ガントナー良かったですね。彼が舞台を引き締めていましたね。そういう役どころでもあるんでしょうけど......

おさむさんですよね。お久しぶりです。
ハンス・チャマー、声もいいし、ビシッときまってましたね。

けいさん
楽しんで来て下さい。1幕,2幕,3幕と盛り上がります。1幕で帰ったりしないように....(笑
フィガロが先だったんですね。私は来週フィガロです。
by keyaki (2007-10-21 00:46) 

けい

素晴らしかった。もう ほんとうにタンホイザーって 一回もDVD観たこともなくて行きましたが 良かった。
歌手陣素晴らしかった。新国立劇場の合唱団も良かったですね。
フィナーレで涙でしたよ。

フィガロも良かったので 今週末は とても幸せでございました
by けい (2007-10-21 23:55) 

OGASHI

さすが皆様すばらしいコメント!!

【keyakiさん】や【edcさん】のコメントなど拝見していまして、毎回勉強させていただいておりますOGASHIです <( )>

いろいろな角度からのコメント流石!! keyakiさん。

コメントべた過ぎるので、早く皆さんのようにわかりやすいコメントができる様に頑張ります。
これからも、keyakiさんのブログ活用させていただきます。

では、失礼いたします m(_ _)m
by OGASHI (2007-10-22 20:22) 

keyaki

けいさん
ハテナマークがいっぱいの演出だと、音楽がよくても、なかなか感動できませんが、今回のは、よかったですね。
私も明日、もう今晩ですけど....フィガロの結婚です。演出はもう再々演ですけど、若手実力派の歌手さんたちなので楽しみです。
by keyaki (2007-10-23 01:13) 

keyaki

OGASHI さん、
勝手なことばかり書いていますが、そんな風に言っていただいて恐縮です。穴、穴....(笑
by keyaki (2007-10-23 01:18) 

keyakiさん、お久しぶりです。

今年は「タンホイザー」と「ばらの騎士」の当たり年ですね。
来月はドレスデン国立歌劇場の「タンホイザー」と「ばらの騎士」に
でかける予定ですが「タンホイザー」は大嫌いなペーター・コンビチュニーの
演出なのでどうなることやら…。キャストは豪華なんですけれど。

TBさせてくださいね。
by (2007-10-26 23:45) 

keyaki

ハンナさん、TBありがとうございます。
ほんとに、重なるものなんですね。
ドレスデン国立歌劇場の公演は行けませんので、ハンナさんのレポートで我慢です。楽しみにしています。
by keyaki (2007-10-27 02:09) 

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