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メトHDの「ホフマン物語(2015年)」のインタビュー ☆ 7重唱 "Hélas, mon cœur s'égare encore" いろいろ [オペラの話題]

 8月27日(土)にメトHDの「ホフマン物語 "Les contes d'Hoffmann"」がWOWOWで放送されます。メトでの収録2015年1月31日です。グリゴーロ主演のものは「ボエーム」に続いて2作目。
 「ホフマン物語」の前に上映された「メリー・ウィドウ」の幕間に宣伝のためグリゴーロが駆けつけてお喋りしています。司会はジョイス・ディドナート、この時にはすでにROHでの「ウェルテル」での共演が決まっていたんですね。「イタリアンモード ON」なんて面白い話をしています。「メリー・ウィドウ」といえば、グリゴーロのカミーユ・ド・ロションは当たり役だったんですよ。



 11月7日からROHでの「ホフマン物語」出演も決まっています。日程は、11月7, 11, 15 (LiveCinema), 18, 21, 24日、嬉しいことにLiveCinemaあって、1980年シュレジンジャー監督の演出で。初演はドミンゴでした。
 私の好きな娼婦ジュリエッタの場面の七重唱 「ああ、僕は心を失って "Hélas, mon cœur s'égare encore"」、今まで六重唱かと思っていましたが合唱もいれて七重唱 (Hoffmann, Dapertutto, Giulietta, Nicklausse, Schlemil, Pittichinaccio, Chœur)なんだそうですが、youtubeからいろいろ拾ってみました。ドミンゴのもあります。アグネス・バルツァが素敵です。




1980年のプロダクション、シュレジンジャー監督の非常に評判のいい演出で、ドミンゴ、シコフ(1986)、クラウス(1991)、マルセロ・アルバレス(2000)、ビラソン(2004, 2008)と続き8年ぶり2016年11月にグリゴーロがやります。


オランジュ音楽祭2000年:
Haddock, Van Dam, Kirchschlager, Vaduza, Dessay, Uria-Manzon, under Plasson.



ザルツブルグ音楽祭2003年:ケント・ナガノ指揮、マクヴィカー演出
 ニール・シコフ、アンゲリカ・キルヒシュラガー、ルッジェロ・ライモンディ、ワルトラウテ・マイヤー、マリアナ・リポヴシェク、ルビツァ・ヴァルギツォヴァなどスターが勢揃い。



マチェラータ音楽祭2004年:Chaslin指揮 Pizzi演出
 La Scola, Raimondi, Rancatore, Allegretta, Maurus, Morris, Casalin, Rivencq, Muzzi, Carraro, Zingariello, Palloni


関連記事:
メトの《ホフマン物語》誤算続きのコケまくり... M・アルバレス、ビリャソンに続きパペまでも! 前回のカレヤ主演の「ホフマン物語」のこと
グリゴーロの [Les contes d'Hoffmann]

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コメント 4

助六

ヴィデオ5本もありがとうございます。
楽しませて頂きました。
僕もこの7重唱は大好きですが、いつも聞くたびに感動しながらヘンな気分になります。
というのはご存知かも知れませんが、このナンバーは全くの偽作なんですよね。

アタマの整理用に事情をメモしておきますので、興味があったらお付き合い下さい。

「Hélas, mon cœur s'égare encore.」の歌詞に乗って出る魅力溢れる旋律はラウル・ガンスブールという劇場監督・作曲家による全くの創作で、オッフェンバックの他作品や遺稿の類に元旋律があるわけでもないんですよね。
舟歌のリズムに乗ってるのは、最後に回帰させた舟歌を重ねてクライマックスを作り出すためにそうしたんでしょう。

このガンスブールと言うのは大変面白い人物で、山師インプレッサリオを絵に描いたようなような人。
ルーマニア出身のユダヤ系で父親はフランス人士官、最初は医学を勉強したそうですが、パリに出て劇作を試みた後、モスクワでフランス・オペラの劇場を立ち上げ、リルやニースのオペラ監督を経て、1893年にモンテカルロ・オペラの監督に就任、何と90歳過ぎの1951年まで半世紀以上在任することになります。
マスネ、フォーレ、プッチーニ、マスカーニ、ラヴェル、オネゲルの新作初演やディアギレフのロシアバレエ団公演、リュリ・ラモーなどバロックオペラの復活上演などで有無を言わせぬ芸術的成果を上げ、キラ星の如きスター歌手を呼んでモンテカルロが国際的に無視できぬ重要劇場になる基礎を築いた人です。

一方古典作品を大幅に「編曲」することも辞さず、挿入・カットに加え、フィガロの伯爵をテノールに歌わせるなんてことまでしてます。
戦前はその種の改変はまだまだ抵抗なく行なわれてたのかも知れませんが。

作曲家としてもオペラ7曲を残してますが(1曲除きすべてモンテカルロで初演)、従軍時代に軍楽隊で学んだだけで正規の音楽教育を受けたことはなく、オーケストレーションは座付指揮者などが引き受けてたそうです。

それでホフマン物語の7重唱もオーケストレーションはアンドレ・ブロックというローマ賞作曲家が行い、歌詞は脚本家ジュール・バルビエの倅のピエール・バルビエがでっち上げたそうです。

何でこんな偽作が挿入されることになったのか経緯を復習しておきますと、

オッフェンバックはホフマン物語を作曲中の1880年10月5日に死に、よく知られているようにギローが補筆を担当して81年2月10日にパリのオペラ・コミック劇場で初演されますが、この初演ではジュリエッタの幕はすべてカットされました。ヴェネツィアの幕は自筆譜の混乱度が最も高く、補筆の問題が大きかったからです。

初演後ギローはジュリエッタの幕の補筆・再構成を続け、ヴェネツィアの幕を含む最初の上演は1881年12月のヴィーン上演か(詳細不明)、82年12月のハンブルク上演だとされます。共に独語上演でした。

1904年に件のガンスブールがモンテカルロでホフマン物語の上演を企画し、新たなヴァージョンを準備します。その際全くの創作の7重唱と、やはり半偽作であるダッペルトゥットのアリア「輝けダイアモンドScintille diamant」がジュリエッタの幕に挿入されます。

後者が「半偽作」だというのは元旋律はオフェンバック作曲「月世界旅行」序曲から借用しているからで、編曲とオーケストレーションは7重唱同様アンドレ・ブロックです。但しこのダッペルトゥットの偽作アリアは04年モンテカルロ上演では演奏されず、最初に舞台演奏されたのは翌05年のベルリン上演だったようです。

譜面はシューダンス社が1881年に初演の選択に従ったジュリエット幕抜き版を出版、1900年頃までにジュリエットの幕を別途出版し、ジュリエッタ幕を含む全曲譜面は1907年シューダンス社の第5版が始めてです。
この1907年版はモンテカルロでのガンスブール=ブロックの編作に準拠し偽作の「輝けダイアモンド」と7重唱を含んでいます。現行シューダンス版はこの1907年版なわけです。

ジュリエッタの幕は現行シューダンス版ですとオランピアとアントニアの幕に比べて特に幕切れが散漫な印象を受けますけれど、さらにダッペルトゥットのアリアと7重唱がなかったら起伏が欠けまるで骨が抜けた感じになってしまいますよね。

7重唱は劇的緊張の間を切り刻むような弦の伴奏に乗って、ホフマンの素晴らしい旋律が立ち上がり、舟歌の陶酔が戻ってきて包み込み見事なクライマックスとカタルシス効果を醸し出します。
オッフェンバックが書いたジュリエッタ幕のフィナーレが長く失われていたせいで、同幕幕切れは再構成が困難だった訳ですが、この偽作7重唱は実に巧みな解決策だったと思います。

実際この1907年版によってホフマン物語は大きな人気を獲得し、レパートリーとして定着するようになったようです。
いかさま師ガンスブールの劇的センスは素晴らしいし、ブロックの作曲には霊感さえあり、この2人の功績は評価されるべきだと僕は思います。

フランス人常連たちとこの件が話題になったことがありましたが、7重唱が全くの偽作であることを知らない人も多く、やはり驚いてましたね。でもあの7重唱はたとえ偽物にしても音楽としては素晴らしいというのが大方の結論で、僕もこれは同感です。

奇跡的に再発見された新資料を使ったケックの新校訂版が進行し、すでに03年2月にローザンヌでミンコウスキ指揮ペリー演出で上演されています。ドゥセが女声3役を歌う予定でしたがキャンセル、代役はドゥランシュでした。僕は見てませんが。

ケック版はミンコウスキが12年11月に再びパリのプレイエルで演奏会形式で取り上げました。当初予定されていたドゥセは再びキャンセル、代わりにヨンチェヴァが3役を歌いましたが、僕がこの卓越したソプラノに注意を引かれたのはこの時が最初でした。

ケック版ではジュリエッタ幕は現行シューダンス版とは殆ど別物になっており、舟歌、ダッペルトゥットのアリア、ジュリエッタのアリア、ホフマンとジュリエッタの2重唱(素晴らしい)、そして全く新しいフィナーレと続きます。
僕は現行シューダンス版の7重唱に未練は残るものの、幕全体の構成としては音楽の劇的漸進に独自性があるオッフェンバックのオリジナルにより引かれています。

それで動画の演奏ですが、ホフマンは僕はグリゴーロとシコフが好きですが、ドミンゴも聞かせますね。
良かった頃のバルツァとユリア=モンゾンのジュリエッタが聞けるのも嬉しかったです。

ホフマン物語は僕にはあらゆるフランス・オペラの中で最も好きな作品で、とりわけアントニアの幕には本気を出した瀕死のオフェンバックの鬼気迫る天才の輝きにいつも呆然となります。

見た上演の中で記憶に残っている歌い手さんたちと言うと、
ホフマンではシコフ(82年)、アライサ(93年)、ビリャソン(07年)、
オランピアではドゥセ(92年、00年)
ジュリエッタではユリア=モンゾン(02年、10年)、コッシュ(12年)、ヨンチェヴァ(12年)
バリトン3役ではレイミー(00年)
ニクラウス/ミューズはもうけ役ですから良い思い出が多く、デュピュイ(92年)、キルヒシュラ―ガ―(00年)、メンツァー(02年)。

82年のシコフと07年のビリャソンは両人最盛時の頂点の思い出。ビリャソンはこの後沈没してしまいましたが。
オランピアは舞台ではそもそもあのコロラトゥーラが正確に歌われることが稀。
アントニアはこちらの期待が高すぎるせいか、これといった歌唱に出会った記憶がありません。
憧れのクラウスのホフマンはYOUTUBEに貴重な7重唱が上がってたので聞いてみましたが、さすがに凛とした張りが素晴らしいけど、晩年の録音のようでやはりホフマンにはもう少し若々しさが欲しいとこですね。
by 助六 (2016-07-26 09:53) 

keyaki

助六さん
ホフマン物語にはいろいろな版があって、それを基本にして、更に公演ごとに変更を加えている....という認識はありましたが、どこのどの部分がどうなのかは、よく知りませんでした。とても興味深い解説ありがとうございます。

2010年にチューリヒでグリゴーロが新演出で歌ったのは「ケイとケックの新校訂版」だったのですが、残念ながら映像はもちろん録音もされませんでした。
ほぼ同時期に、メトも「ホフマン物語」を新演出で上演した(グリゴーロが歌っているのはそれの再演)んですが、ケイ氏が、レヴァインが、自分たちの版を採用しないのは残念だ....と抗議しています。そこに、「3月にはチューリッヒ・オペラがグリゴーロのタイトル・ロール・デビューでホフマンの新演出を舞台に乗せる予定だ。そこでは、他の多くのヨーロッパの劇場と同様に、我々の版に基づいた演奏を予定している。」ということが書かれています。

パリでは、来シーズン、なんでもかんでも歌っているのになんとロールデビューのカウフマン主演の「ホフマン物語」は、カーセン演出の再演のようです。これは2006年の映像がありますが、ガンスブールの7重唱がありますから旧版ということですね。キャストにオランピアがないですけど、オランピアのない版なんてないですよね。(書き忘れ?)

>憧れのクラウスのホフマンはYOUTUBEに貴重な7重唱が上がってたので聞いてみましたが
コンサート形式のでね。私も見つけました。ここにアップしようかと思いましたが、コンサート形式だし....でやめました。
by keyaki (2016-07-27 01:45) 

助六

11月のバスティーユのホフマンは切符買ってあるので行くつもりです。
あまり魅力的な配役じゃないけど、カウフマンのあの発声にもまあ慣れてきたし、昨年のバスティーユでのベルリオーズのファウストはスタイリッシュな歌で良かったので。ホフマンは役デビューなんですか。知らなかったです。

劇場サイトに行ってみたら確かにオランピア役が消えてますね。
サビーヌ・ドヴィエイユが予定されてたんですが、妊娠だそうです。
メスプレ、ドゥセ、マシス、プティボンの線に連なる若手の仏型コロラチュール・レジェールでテクニックも音楽性もある人なので女声の中では唯一魅力ある配役だったんですが、残念。

カーセン演出は2000年のプロダクションで11月の次回は実に6回目の再演。
僕はホフマン物語は何度聞いても魅了されてしまうので毎回見てきましたが、次回もついつい。

バスティーユのプロダクションはシューダンス版とエーザー版の折衷ヴァージョンで、1907年のシューダンス版を基に、1977年出版のエーザー校訂版で初めて復活出版されたナンバーの内、音楽的に特に魅力的な4ナンバーを追加したものです。

① プロローグ: « La vérité, dit-on » (ミューズ)を挿入。
②オランピア幕: シューダンス版の « Une poupée aux yeux d’émail » (ニクラウス) をカットし
替わりに « Voyez-la sous son évantail » (ニクラウス) を挿入。
③アントニア幕: « Vois sous l’archet frémissant » (ニクラウス) を挿入。
④エピローグ: « Des cendres de ton coeur » (ミューズと合唱) を挿入。

ジュリエッタ幕はシューダンス現行版そのままで偽作のダッペルトゥットのアリアと7重唱もそのまま演奏されます。

この4ナンバー挿入ヴァージョンは80年にザルツでプレミエを迎えたレヴァイン指揮ポネルのプロダクションが始めたもので、その後は大劇場のほぼスタンダードに定着しています。
ニクラウス/ミューズ役が断然重要になってスター・メッツォを起用できるのが実用的メリットですね。

keyakiさんは確か03年に新国でガランチャのニクラウスを聞かれてましたね。
もう彼女は歌わなくなってしまったようで、私はチャンスがなかったので心残りです。
by 助六 (2016-07-27 07:24) 

keyaki

助六さん
グリゴーロも11月はロンドンで「ホフマン物語」です。
アントニアがヨンチェヴァですよ、いかがですか?

>カウフマンのあの発声にもまあ慣れてきたし

確かに、あっちでもこっちでもカウフマンですから慣れてきますね。
あの声、フランス語の方が気にならないのかもって思います。

パリのは2006年の公演、シコフ、ターフェルのをNHKがBSで放送しました。

ということはメトのもレヴァイン版なんでしょうね。WOWOWで放送があるので、チェックしてみます。

>keyakiさんは確か03年に新国でガランチャのニクラウスを聞かれてましたね。
そうです、無名の頃ですが、やっぱり光ってましたよ。アントニアがアテッテ・ダッシュでした。ホフマンはヤネス・ロトリッチで、なんかスーパー・マリオみたいな詩人には見えないなんか職人さん風でした。
次の再演はホフマンがフォークトでした。
http://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/031128_004785.html


by keyaki (2016-07-27 10:00) 

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