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ナタリー・ドゥセ 《夢遊病の女》途中降板.... そして《ハムレット》全公演降板 [オペラの話題]

 ナタリー・ドゥセ Natalie Dessay (1965年4月19日生)が、メトロポリタン歌劇場で、3月16日〜4月9日まで上演される《ハムレット》を病気のため降板することが3日に発表されました。ハムレットがキーンリーサイド、オフィーリアがドゥセという最強のコンビで、しかも新演出で映画館でのHD上映(ライブ・ビューイング)も含まれていたていた.....とくれば.....えぇ...またですかメトさん....どうしちゃったの....です。
 メトロポリタン歌劇場の2009/2010シーズンで、当初発表のキャスト通りにHD上映(ライブ・ビューイング)が行われなかったものが、《トスカ》《カルメン》《ホフマン物語》、今回の《ハムレット》これで4つ目です。《カルメン》と《ホフマン物語》は、歌手さんたちの自己都合のほとんど我が儘なんですが、人気先行でその歌手がその役を本当に歌う意欲があるかどうかを見極めないでオファーしている節もありますので、劇場の責任もあると思います。《カルメン》の場合は、ゲオルギューがアラーニャと離婚話しが進行中なので一緒の舞台に立ちたくない...という理由でしたが、実際には、やっぱりカルメンは自分には向かない....と気づいた...ということかも知れません。《ホフマン物語》のパペの降板理由は、レパートリーにはしない....とかでしたが、何を今更ですし、ネトレプコの4役じゃなくてアントニエッタだけ歌う...というのは劇場側の勇み足、あるいは判断ミスでしょうね。

 今回のドゥセのキャンセルは、体調不良または、声の不調によるもののようですから、こういう言い訳にもならない自己都合のキャンセルと一緒にしては気の毒だと思います。ドゥセは、2月18日のパリ・オペラ座の《夢遊病の女》を1幕だけで降板、残りの21日と23日の公演もキャンセルしています。この18日の途中降板の件が、そんなバカな....ということで話題になっていました。経緯は次のようなものです。

 18日の《夢遊病の女》の公演がはじまる前に、劇場側から、ナタリー・ドゥセは、具合がよろしくないが歌います...というお知らせが有り、幕が開きました。そして、2幕がはじまる前に、また劇場側からのお知らせで、ドゥセは、これ以上は歌い続けることができないので、本日の公演はこれでおしまい....皆さん、さっさとお帰り下さい...と言ったかどうかは知りませんが、代役を立てることもなく18日の公演は1幕だけで終わったそうです。
 翌朝、ドゥセが病気で歌えなかったのは仕方がないとしても、代役も立てずに半分で終わってしまったことに納得できない人がバスティーユにチケットの取り扱いについて電話をしたところ「昨夜の" La Sonnambula"に対して、チケットの払い戻しや交換は一切ない。半分上演された場合、補償責任はない。」との回答だったそうです。
 しかし、苦情が殺到したのか、代役を立てる努力をしなかったことに劇場側が責任を感じたのか、その辺の事情は分かりませんが、お詫びのしるしなのか、他の公演を30%とか50%オフにするというお知らせをウェブサイトで発表しています。


 しかし、フランス人って、こういうことにおとなしく応じるとは思えませんけど....ほとんど観光客だったのかしら。今はどうか知りませんが、オペラ歌手さんたちは、最初の休憩の時にギャラをもらう......という話しを聞いた事がありますが、これは、つまり半分上演されれば、歌手にギャラを支払う義務が発生して、観客にはチケット代の返金義務はない...ということですね。各劇場で、それぞれ規約があるんでしょうけど、だいたいは同じみたいです。当ブログでも "チューリッヒ《ドン・パスクァーレ》ハプニング" という記事で途中で歌手が歌えなくなった時の劇場側の対応について書いた事がありますが、「最初の休憩の前に公演が中断された場合には、払い戻しをするというルールがある」ということです。それにしても、チューリヒ歌劇場とパリ・オペラ座(バスティーユ)の対応の違いってなんなんでしょう.....チューリヒ歌劇場の対応が、いかに素晴らしいものであるか再認識させられました。オペラを楽しみに劇場に来た人たちを途中で追い返すって.....どの劇場も普通そんなことしないです。

 ナタリー・ドゥセ、一過性の風邪とかではないようですが、今後、ウィーン《夢遊病の女》、ロンドン《連隊の娘》、日本(トリノ来日公演《椿姫》)とけっこうスケジュールがつまってますが、大丈夫でしょうか。


※Natalie Dessayのカタカナ表記ですが、デッセー、デセイ、ドゥセ.....と他にもあるかもしれませんが、googleで検索すると、デッセー=87,300件、デセイ=23,100件、ドゥセ=804件と「ドゥセ」が圧倒的に少ないのですが、Dessayの発音が話題になった時に、「"2C"よ...」とご本人が言ったとということですので、「ドゥセ」としています。

関連記事:
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コメント 5

ふくきち

東京の《椿姫》のチケットを買ってあるので、ショックです。キャストが目的でオペラのチケットを取ると、本当に賭けをしているようなものですね。
ドゥセは、ときどき叫ぶように歌うので、喉に負担をかけているのかもしれません。CDの付録のDVDに《ルチア》の狂乱の場が収録されていたのですが、楽譜にない箇所でウギャー!って絶叫していて驚きました。そういう、やりすぎちゃうところも好きなんですけどね。
by ふくきち (2010-03-12 00:47) 

keyaki

ふくきちさん
パリの夢遊病は1月の末から延々2月末まで11公演って、なんか疲れるスケジュールですね。やっぱり多くても8公演くらいが妥当なような気がします。確かに感情を込めて歌うと歌手生命は短いっていいますね。
東京は7月ですから、心配ですが、ウィーンとかロンドンとかキャンセルしても来日して欲しいですね。ナウリと一緒ですし、家族で夏休みはニッポンって決めていると思いますし。
まあ、賭けをしているようなものなので、出演してくれれば、勝った!ってことですね。
by keyaki (2010-03-12 01:21) 

助六

私は、2月6日の5回目と23日の最終公演(ドゥセはキャンセルで、代役はI・マルティネス)に行きました。

ドゥセは、既に1月25日の初日も「咽頭炎で不調」のアナウンスをして歌ったそうですが、出来はむしろ悪くなかったと言われます。
2月18日は、1幕通じて息も絶え絶えだった模様。

私が聴いた6日は不調アナウンスはなく、歌も目に付く傷はなく、明らかに病気による不調を感じさせる部分はありませんでした。
ただ、音符はすべて正確に出しているものの、アジリタの音の粒に滑らかさと輝きがなく、彼女として最高の部類とはまったく言いがたい出来でした。
そんな訳で、風邪が治りかけてから10日以上経ってるし、これはコロラトゥーラとしての衰えの兆候?と自問しながら帰りました。

今シーズンは彼女は、11月にムゼッタ2回と12月にバッハ「クリスマス・オラトリオ」抜粋のソロで聞きましたが、声に特に陰りはなく、ムゼッタは最初は誇張感が鼻に付いたけど、最後の公演では自然で感動さえある歌唱を聞かせてくれてたんですけどね。

それで、その後の「夢遊病」途中キャンセルと続く最終2公演キャンセルは、単なる風邪のぶり返しかと想像してましたが、さらにNYの「ハムレット」全公演をキャンセルと聞きますと、
① 一時的な風邪、大事をとって休養
に加えて、
② 声そのものの衰え
③ 02年7月と04年11月の2回の声帯のう胞手術と何らかの関係
とかを憶測してしまいますね。
まあ①である可能性が高いだろうと思うし、そう祈ってますが、この点について私は信頼できる情報を知りません。

手術の影響については、個人的には2回とも手術後、
まず「あれ、潤滑度が落ちたみたい」(03年7月のリサイタル、05年7月のリサイタル)
と感じた後、
「完全復活。心配なし」(03年11月の「アリアドネ」、06年9月の「ルチア」)
と確信させられた経験を2回繰り返してますので何とも申せませんねぇ。

そう、サンタフェと同じで、彼女は日本では夏休み兼ねて歌うかもね。

23日に代役で歌ったイリーデ・マルティネスは、10数年前ケルンの座付き時代にコロコロ転がる声とちょっとエキゾティックな容姿(コスタリカ出身)で聴衆のマスコット的存在だった歌い手さんで、98年にはOpernwelt誌の「今年の若手女声歌手」に選ばれ、03年にはザルツでダムラウやカウフマンと共演して「後宮」のコンスタンツェ歌ったこともある人。
そう言えば、ラングリッジのエントリへのコメントで触れさせて頂いた97年ザルツの「ボリス」でも端役クセーニャを歌ってた。

マルティネスは「夢遊病」では、コロラトゥーラは一応出すんだけど、予想通りドゥセよりさらに軽く、まるでプロジェクションのない(ドゥセはこれがある)声に絶句。
まあマルティネスにせよドゥセにせよ、この曲はパスタのために書かれたアミーナ役にもう少しドラマティックな声を配さないと、まるでアホくさい低脳芝居になっちゃう。
まあより厚い声でも、89年のアンダーソンももう一つだった。
ドゥセはアミーナ役は4月にフロレスとヴィーンで歌って終わりにする由。
彼女はパリでは来シーズンは「ジューリオ・チェーザレ」のクレオパトラ、その後はマノン、エルヴィーラ(清教徒)、マリー(連隊)、ホフマン3役、ヴィオレッタなどが計画されてる模様。

大分前、パリのオペラ・コミックで「ホフマン」がテノールの失声で2幕後で中止され、払い戻しなしのケースに遭遇したことがありましたが、数人文句を言う客がいただけで、ほかの客は皆遠巻きで様子を見た後、大人しく帰りましたねぇ。
エクス音楽祭でもにわか雨でバルトークの「青ひげ」が半分で中止、払い戻しなしのことがありましたが、さすがスノッブな客ばかり、天候は免責事項というのがコンセンサスだし、皆静かに引き上げトラブル・ゼロでした。

チューリッヒのケースは大変良心的ですね。後半は失声歌手抜きの抜粋版で続けたり、リサイタルにしたりするケースもままあるそうですが、その場合でも前半が終わっていなければ払い戻しに応ずるケースが多いようです。チューリッヒが急な代役を手配できたのは、座付き歌手がいるレパートリー劇場の特権ですが、その努力は高く買われていいですね。

今回のパリの場合は、典型的プリマドンナ・オペラでアミーナ抜きで抜粋やってくれても意味ないと思うので、私だったら後半中止で一応不満はありません。1幕が終わってしまった以上払い戻しなしもまあ仕方ない部類かなと思います。
ただ、ドゥセの状態がそこ数日どうだったのかは知りませんが、アンダーを準備する必要を感じなかったのかは疑問が残るところではあります。

アンダーの準備についてはケースバイケースで、常にアンダーを用意してる劇場はない由。
92年にスカラの「湖上の美人」で主役のアンダーソンが2幕終わり近くで失声し、肝心の終曲ロンドがカットされたことがありました。当然払い戻しはなく、最後の15分とは言え、これは音楽的には大変不満で劇場を出ましたねぇ。イタリア人客もブツブツ言いながらも特にトラブルも起こさず帰っていきましたが、定期会員からは後から抗議があったそうです。当日は裏配役だったガスディアがアンダーとして待機してたそうですが、最後の幕間までに問題が起こらなければアンダーは帰るのが習慣だそうで、帰宅後だったとのこと。仮に残っててもあの難アリアをいきなり歌うのは無理だったと言うのが芸術監督の説明でした。

パリの今回の弁済措置は、人気のない特定2コンサートの上級2カテゴリーに限り50%引き、人気のないオペラ特定2演目の上級6カテゴリーに限り30%引きだそうですから、私だったら事実上意味はありません。

上演トラブルがあったとき飲み物無料サービスというのは、モルチエがザルツやパリでよく使ってた手で、これは(特にシャンパーニュ)客の怒りをなだめるにはバカにならない効果があるので、安上がりな妙策とも言えます。
そう言えばチューリッヒでは、この間の大晦日公演の終演後も無料で飲み物出してくれました。シャンパーニュじゃなくてうまくないプロセッコでしたが、飲み放題だしこちらも結局上機嫌。バルトリのギブス出演の代償と言うわけじゃなくて、純粋な祝典サービスですしね。ペレイラはスポンサー探し等のマネージメント面でも有能な人なんでしょう。

by 助六 (2010-03-13 13:30) 

keyaki

助六さん
最初の休憩までやれば、払い戻しの義務はないというのが伝統的な規則なんですね。ということは、ドゥセもギャラをもらったということですよね。
他の出演者とかオケとか合唱団もラッキーってなもんですね。

>パリの今回の弁済措置
私も、どうせチケットの売れ行きがよくない公演なんだろうと思いました。私も、飲み物無料のサービス券を配ってくれたほうがいいです。

>NYの「ハムレット」全公演をキャンセル
過労なので休養をとるにしても、もしかしてHD上映がイヤってことはないですか?

チューリヒのペレイラ氏は、2012年までですが、多分、演目は確実に減らされて、当然上演回数も減って、大道具さんとか合唱団とかもリストラされたり、給料が減るのではないかと心配している劇場関係者の方もいます.....トップが変われば、いろいろ変わるんでしょうね。
by keyaki (2010-03-13 20:17) 

Sardanapalus

花粉症でパソコンに向かう気にならないので(^_^;)ちょっと乗り遅れ気味の私の記事へコメントとリンクありがとうございました。キーンリーサイドとドゥセは身長差もいい感じですし、今回の演出の主役コンビをずっと歌っていたので残念です。METからは病気としか発表されていませんが、大事でないことを祈ります。

>もしかしてHD上映がイヤってことはないですか?
それはどっちかというとハムレットの歌手にありえそうなキャンセル理由ですね(^^)
by Sardanapalus (2010-03-14 18:28) 

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