若きヴェルディは、バッソ・カンタンテのために非常に美しい役をいくつも提供している。この分類は、ルッジェーロ・ライモンディにも、澄んだ美しい歌唱は、彼のすばらしい才能の一部でしかないとしても、ある意味、当てはまる。
パガーノ(ロンバルディア人)、シルヴァ(エルナーニ)、アッティラ、バンコー(マクベス)、プロチダ(シチリアの晩鐘)、ワルター(ルイザ・ミラー、この役が、彼は全然好きじゃない)、グァルディアーノ神父(運命の力)などがこのグループに属するし、アイーダのランフィスと国王も同様だ。これらはすべて、一方では、美しい音楽の流れと耳なじみのよいメロディーと結びついており、また他方では、歌唱効果を確実に達成できる。つまり、まさに言葉通りの意味で、「声」をひけらかすことができる。なにしろ、この「声」に、観客の大部分が相変わらず、繰り返し、盛大な拍手喝采をおくるのだ。
ザッカリア(ナブッコ)も、ここに分類することができる。ライモンディはこの役も、全ての同類の役柄と同じように、頻繁に歌った。
この役のすばらしい舞台出演のひとつは1979年、パリのもので、テレビでも放送された、モントレソールの舞台装置に関して言えば、どちらかといえば、大げさで仰々しい演出だった。その当時の劇場監督だったリーバーマンは、彼の著書「そしてだれもが自分のための祭りを待っている」の中で書いているように、このプロダクションに相当に満足していなかった。
多くの人が、このオペラについては、イタリアの非公式国歌と呼ばれる、いわゆる「捕虜の合唱(行け金の翼にのせて)」しか知らない。この感動的な「ナンバー」の終わりに、司祭長が美しい独唱を付け加えて歌うということは、あまり知られていない。ましてや、ザッカリアが、この作品では、最初と最後の言葉を担当しているなんてことは知るよしもない。この年老いたヘブライ人は、フィエスコと同じように、威厳に満ちた、尊敬を集める、厳格な人物として演じられるものだ。そして、ライモンディも、まさにそのように演じ、「ライモンディ向きに訓練された観客」は期待を裏切られなかった。もちろん、彼も期待通りのものを得て完全に満足した。
相当に野性的な巻き毛のかつらと、荘厳な印象を与える豪華な金襴緞子の衣装に包まれていた。こういうものは、効果的に舞い上がらせることができるもので、彼も舞台上で、全てを意のままに波打たせてしずしずと歩き回った。もっとも強い印象を与えた瞬間:巨大な人影が、※写真下)首筋に十字架の角材のようなものを付けられて登場する場面。合唱の最後の音が静かに消えて行ったあと、ライモンディはオーケストラの伴奏なしで、その空白の中で満身の力を込めて最初の言葉を発する。その言葉によって嘆き悲しむ人々にしっかりしろと呼びかけるのだ。
しかし、消化しない何かが残る、この役に中身がないからか、あるいは、演出のせいなのか、強烈な個性が、その本来の可能性を生かせない。
ライモンディが、ザッカリアという役を新たに、そして、このプロダクションのザッカリアより、よく創り上げることができる演出家を見つけるなんてことがあるだろうか。 -続く- Ankenbrand著-Ruggero Raimondi Mensch und Maske-※オペラ好きの友人訳
※ビデオクリップ:著者が話題にしている公演です。豆みたいに小さいですけど裾さばきに注目!
1979年6月30日仏TV放送 ナブッコ
ネロ・サンティ指揮 アンリ・ロンス演出、美術衣裳ベーニ・モントレゾール
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※↑角材にくくり付けられている |
ナブッコ | シェリル・ミルンズ |
ザッカリア | ルッジェーロ・ライモンディ |
イズマエーレ | カルロ・コッスッタ |
アビガイッレ | グレース・バンブリー |
フェネーナ | ヴィオリカ・コルテス |
アブダッロ | ロベール・デュメ |
アンナ | ジャニーヌ・ブローニュ |
2005-11-01 14:18
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>裾さばきに注目!
ビデオクリップ、おもしろかったです!
声と一緒に、豪華な衣装を見せつけて、大芝居っていうのもオペラの楽しみのひとつですね。こういうのって歌手次第だと思います。豪華な衣装ならだれでもできるってものじゃないですね。
by euridice (2005-11-02 08:54)
この話も相当なもんですからね。解説を読むとかえって??が湧いてきますから、こういうスペクタクルで楽しむのが賢明かとおもいます。
最近の風潮でしょうか、ゲットーに送られる集団にしちゃうのも、陳腐で食傷気味ですよ。
上にながーーいガウンを羽織ってますが、あれって、背丈がないと絡まっちゃって大変ですよね。
カーテンコールでの様子が面白いですよ。自分の裾だけで大変なのに、人のも踏まないようにしないといけないしで。
by keyaki (2005-11-02 09:18)
裾さばき、さすがでしたね。うーむ、美しい。
どうしたって日本人は背がちっこいから、ああいうガウンが様にならなかったり、時には踏んじゃうこともありますよね。
一度トラヴィアータの日本人ヴィオレッタがカーテンコールでガウン踏んでこけそうになって(笑)
やはり、向こうの方はああいうドレスさばき裾さばきが上手なようにお見受けします。
ライモンディほどあの髪型やおひげが似合う方も少ないでしょうねぇ。
by pesca (2005-11-02 14:50)
おお~凄い。ほんと、長身だから似合う衣装ですね!カッコイイ~。裾さばきも颯爽としていてしびれます(^_^)今こういうスペクタクルなオペラオペラした(笑)演出をやっても、それに耐えられる歌手がなかなかいないでしょうね。
by Sardanapalus (2005-11-02 22:07)
「ナブッコ」が「ネブカドネザル」、「ザッカーリア」が旧約に出てくる「予言者ザカリア」のことだと気づいたのは、このDVDを見ているときでした。(^^;)
タイトルロールのナブッコが主役のはずなのに、DVDケースはザッカーリアの手かせ仁王立ち写真。誰だって「この人がナブッコ」と思いますよね。
それにしてもこの仁王立ちシーン、手かせはめられたザッカーリアと松葉杖にぶらさがったミルンズのナブッコが吠え合うんですよね。
最初見たときびっくり・・・というか、あきれました。二人とも両腕を肩よりも上に上げた体勢で歌ってる。 これは横隔膜が上がってしまって声が出にくいので、普通歌うときはやらない姿勢なんです。(両手上げるのは、歌い終わった時。) よくもまあ二人とも、この姿勢であんなにフォルテで吠えられるなあ!って。ふたりとも若かったんですね。このシーン一番の見どころだと思います。
by Aki (2005-11-04 00:00)