モーリス・ベジャール&R.ライモンディ

友人から、とても珍しい雑誌の切り抜きが手に入ったと連絡がありました。なんと、中古屋さんで見つけた《"ある歌手の内面を探る六つの歌"ピランデッロの「作者を探す六人の登場人物」より》のLPの中に、フランスの雑誌の切抜きが入ったままになっていたそうです。これぞ、まさしく儲けもの、こんなこともあるんですね。なんとライモンディが足に囲まれているめずらしい写真もあります。
このモーリス・ベジャール制作ライモンディ主演のテレビ番組(1982)は、フランスで放送されて話題になったものです。
ベジャールとライモンディは、1980年９月ジュネーブ大劇場でのドン・ジョヴァンニで知り合い、そこで、お互いに意気投合して、このテレビ映画を制作するにいたったということです。その辺のいきさつを書いたものがありますので、ご紹介します。

Sergio Segaliniの "A model career"より抜粋
....次の年、フランスでジョセフ・ロージー監督の映画「ドン・ジョヴァンニ」を公開したが、ライモンディのポスターは、何ヶ月も連続して貼られ、ライモンディ現象が起った。
音楽と言葉、メロディーラインとドラマの意味を完璧に混合する、総合的な歌役者という現代的イメージがここにあった。
その時までにライモンディが到達したのは、演技者としての大きな柔軟性を備えた、完璧な表現であった。これが、モーリス・ベジャールを魅惑した。偉大な二人はジュネーブで初めて出会った。
インテンダントのフーゴ・ガルは、自分の任期のはじめにあたって、一大センセーションを巻き起こしたいと考えたので、深い洞察力で、1980年9月、この二人の聖なる怪物たちを共にドン・ジョヴァンニの新プロダクションに招くことに決めた。成功間違いなしの実験企画だったが、何よりも二人が、お互いを知り、理解するという結果をもたらした。
きわめて意欲的にはじまった、二人の協力関係を続けるべく、モーリス・ベジャールは Pirandelloの ｢作家を探るための６つの登場人物」をテーマに、テレビ用の映画制作を考えていた。
ライモンディは、２年前のロージーのときと、同じ柔軟性と、積極性、同様の注意深さで、モーリス・ベジャールの演出を受け入れた。ライモンディは、次々と、ヤーゴ、ドン・キショット、エスカミーリョ、メフィスト、ボリス　そして当然のことにドン・ジョヴァンニになった。（有名なクレドは別として）ライモンディは、自分の役ではないと見ていたイヤーゴと「ファウストの劫罰」のメフィストは別として、これらドン・キショット、エスカミーリョ、ボリス、そして言うまでもなくドン・ジョヴァンニこそが、今や頂点のキャリアを正に形成してきた諸役であった。.........

※ライモンディは、ヤーゴについては、50才を過ぎてから.....と考えていた。そして実際に、1996年（55才）ザルツブルグ音楽祭の「オテロ」に出演（アバド指揮、ドミンゴ＆フリットーリ）、その後トリノ、チューリッヒ、ニース、ミュンヘンと出演している。オテロ出演記録
※「ファウストの劫罰」は、1983年にベルリオーズ生誕200年祭公演と、2002年の公演（演奏会形式）がある

"オペラ歌手20人が語るその芸術と人生"ヘレナ・マテオプーロス著　岡田好恵訳
..........ライモンディは、彼が今までに関わった最も面白い企画として、振り付け師のモーリス・ベジャールとともに作成した「ある歌手の内面を探る六つのアリア」というテレビの娯楽番組をあげた。ライモンディが演じた、このシュールでしかも皮肉な番組の主役は、自分探しをしているひとりの歌手で、仮想の女性に恋をし、結局、彼女によって死においやられる。その途上、彼はボリス・ゴドノフの死、エスカミーリョの闘牛士の歌、ドン・キホーテの死、メフイストフェレスのセレナーデ、クレド（イヤーゴの独白）、ドン・ジョヴァンニの墓所の場から「シャンパンの歌」を歌う。..........


1982年、パリ・オペラ座管弦楽団、エミール・チャカロフ指揮
◇カルメン : 闘牛士の歌
◇ファウストの刧罰: メフィストのセレナーデ
◇ボリス・ゴドノフ: ボリスの死
◇ドン・ジョヴァンニ: シャンパンの歌
◇オテッロ: クレド（ヤーゴの独白）
◇ドン・キショット: ドン・キショットの死

モーリス・ベジャールとの共同企画によるフランスのテレビ番組のアリアを収録。ライモンディが自分探しをしているひとりの歌手を演じた。

※モーリス・ベジャール：Maurice Bejart　1927年マルセイユに生まれる、1945年 舞踊家としてデビュー
先日ＢＳでベジャールの特集を放送していましたが、現在も現役で活躍中なんですね。

※関連記事2005.2.5の記事にベジャールとライモンディの「ドン・ジョヴァンニ」カーテンコールの写真があります