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RRのエピソード:声楽授業(15)ボローニャ音楽院-4- [ L.Magiera著:RR]

9月1日の記事の続き。
ボローニャ音楽院の教授として勤務していたレオーネ・マジエラ(26才)の教室にルッジェーロ・ライモンディが(19才)やってきました。スマートで背が高く、ハンサムな青年で、女子生徒は、そわそわ、、、

(私=レオーネ・マジエラ)
「Borghi-Mamoのことで、更にあなたが知っていることを話すことができますか?」
「もちろんです。エルミニアは、パリで生まれましたが、実際にはボローニャの人で第二次世界大戦の間に私達の街ボローニャで亡くなりました。彼女は、スペイン人テノールと結婚した有名なメゾソプラノのAdelide Borghiの娘でした。エルミニアは、お母さんの生徒で『メフィストフェレ』の初演で大成功を収めました。彼女の"Spunta l'aurora pallida"は、ボイトの絶大な称賛を受けたのです。」

「それにしても、たったの19才で、よく知ってるのね」アーダは、クラスの名簿で、ルッジェーロの生年月日を見て、感心して言った。しかし、私には、彼の教養よりも、彼の容姿の方にもっと関心があるように見えた。
「よろしい、それでは、音楽の話は今はこれくらいにしておきましょう。私に何を聴かせてくれますか?」
”Splendon piu belle in cielo le stelle”は、いかがでしょうか?」
「とてもいいですね」
私は、短い前奏を弾いた。すぐに彼の声は、私にすばらしい感情を引き起こした。瑞々しく、よく響いて、表情豊かな声が、素晴しい素質を感じさせた。それ以上に印象的だったのは、そのフレージングで、気品があって、インスピレーションに溢れ、めったにない優れたものだった。1961年の初めのことで、ルッジェーロは弱冠19才だった。

その曲の終わり近くの、低い"fa"のところで、彼はちょっとためらいをみせた。他のすべての音符のように完璧ではなく、ちょっと甘かったが、それは重要なことではなかった。
「すばらしい! ルッジェーロ」と、私は思わず叫んだ。そしてアーダとブルーナの熱狂的で、うっとりした称賛が続いた。
それに反して、ルッジェーロのコメントは、みんなの興奮に水を掛けた。
「この低い"fa"は、最悪です」 彼の言葉だった。
「なんてことを! 最も低い声は、30才までに成熟します。だから、何も心配することはありません。今は、昔の先生方が言っているように、"屋根裏部屋"で練習しているつもりで私に聞かせてくれればいいのですよ。」 彼は、笑顔を取り戻した。

「ローマのピエル・ヴェナンツィ先生は、これらの限界的なコロリティを、高音の声域を明らかにするために使う習慣がありました。もちろん、私は、その時、何の問題もなく、彼にそれを保証することができます。」
「私は、聖トマーゾのように疑り深くて自分で確かめないと気が済まない性格なんだけど、一番高い音を試すために、何か歌ってくれますか?」
「マイアベーアの悪魔ロベルト"Suore che riposate"を ボローニャ出身の有名なバス歌手ランゾーニによるものと考えられるフィナーレのヴァリアンテで歌います。」「いいですねぇ」
彼の高音域は本当に感動的だった。彼は、輝いて力強い"fa#"を響かせ、信じられない正確さで「ランゾーニのヴァリアンテ」に、敢然と立ち向かった。

「ところで、マエストロ、あなたのご意見を伺ってもよろしいでしょうか? 私は、バスですか、それともバリトンですか?」 彼は、きっぱり質問を提示して、正確な答えを待っていた。私は、この問題を回避しなかった。
「高音域の美しさと力強さは否定できないのですが、音色は、明確にバスのものです。しかしながら、声は、不思議な変化を持つ可能性があります。勉強を続けながらどうなるか見て行きましょう。」  ー続くー

バスかバリトンかそれが問題だ!
ヴェルディ音楽院のカンポガッリアーニ先生は、ルッジェーロが16才の時ですが「バリトン」と判断し、ほぼ同時期にギバウド先生は、「バス」と判断しました。
父チェーザレが語っているように「こうして、今彼が実際のところ何なのかという話が、始まったわけです。」ーアンケンブランド著Ruggero Raimondi Mensch und Mask からー
彼の40年に渡るキャリアを見てみれば、バスとバリトンの役の中から、自分の声域と役柄に合ったものを歌いながら、レパートリーを拡大しているのがよくわかります。

◆ファヴォリータの「星は空に"Splendon piu` belle in ciel le stelle"」NHKが招聘した1971年イタリア歌劇団の公演で歌った。


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にぃにぃ

初々しいRR(^^)nice!


 
by にぃにぃ (2005-09-06 00:08) 

keyaki

スポレートで、はじめてヴェルディのレクイエムを歌った時の写真、多分23才だそうです。
19才の時の写真を見たいものですね。
by keyaki (2005-09-06 01:45) 

にぃにぃ

>バスかバリトンかそれが問題だ!
歌手にとっては今後の方向性を決める大問題ですよね。ライモンディの不安な気持ち分かるような気がします。
”どちらかではないというのは、本当はどちらでもないってことなんじゃ?”

>スポレートで、はじめてヴェルディのレクイエムを歌った時の…
『内気で恥ずかしがり』の表情がよく出てますね。この写真好きです(^^)-☆
でも、ミラノでもローマでもすばらしい友人に出合っているし、前回(14)でのRRを見ると、私はむしろ親しみやすくて話上手な好青年、って感じかしますが。
by にぃにぃ (2005-09-06 22:52) 

Sardanapalus

女生徒達の興奮している様子が良く分かります(笑)それにあきれているマジエラさんもいい味出してますね。

>聖トマーゾのように疑り深くて自分で確かめないと気が済まない性格
ふふふ、よっぽど疑い深いんですね(笑)さすがイタリア、聖人の例えが出てくるなんて、イギリスじゃ考えられないですよ(^_^;)私がこんなこと言ったら、「トマス(トマゾ)って誰??」って言われちゃいそうです。
by Sardanapalus (2005-09-07 03:04) 

keyaki

にぃにぃさん、
とにかくシャイだというのは一致してますよね。「ブラーヴォ、ディーヴァ」にも、いつも下を向いていて、なるべく話しかけられないようにしていた、、なんて書いてありますしね。この極端な内気を克服できたのが、演出家のファジョーニのお陰,、、と言ってますものね。

>ミラノでもローマでもすばらしい友人に出合っているし
同年の友人は少なかったかも、話が合わなさそうですよね。先輩に好かれるタイプですよね。
by keyaki (2005-09-07 08:34) 

euridice

>シャイ
シャイだと言うことが、演技力がないということではないということですね。有名な俳優さんなんかでも、内気で引っ込み思案な性格だったなんていう発言をしてるようですし。

P.ホフマンが、ちょっとわかりにくいんですけど、これに関連したことかな?って発言をしてます。

「私はじきに、自分自身をひけらかす勇気は、相当不平等に分配されているということ、そして、お門違いの人々のところに分配されていることがけっこう多いということ、その結果、よくできる人が、それを見せたいという欲求を持たないということに気がついた」

むしろ内省的(だと多分シャイになる)な人のほうが、演技なども深く、説得力のあるものになるんじゃないかと思います。
by euridice (2005-09-07 09:01) 

keyaki

Sardanapalusさん
>「トマス(トマゾ)って誰??」
私も、意味がわからなかったんですよ。この部分は、飛ばしちゃおうかなぁ、、とも思いましたが、気になりましたので、ネットのお仲間に、アドバイスしてもらいました。

マジエラさんも同性ながら、なんてかっこいい奴なんだぁと思っていたんでしょうね。
前にもどこかで書いたような気もしますけど、
若い頃、イタリア語の講座に遊びに行っていて、イタリアからの若い留学生に来てもらっていたことがありますが、そいつが、背が高くて、ハンサムで、上品で、まるで、ダビデ像のような若者だったんですよ。パルマ出身だったかな。女の子達(私も含めて)は、彼の一挙手一投足に、ためいきをつきながらながめてました。アーダと同じですよ。数回来たところで、一度も同じ洋服だったことがないのにみんな気がついて、質問しちゃいましたよ。身元引受人の教授は、日本で虫がついたら申し訳ないというので、大変だったようです。(笑
by keyaki (2005-09-07 09:02) 

euridice

>日本で虫がついたら申し訳ない
^^;日本で虫がついちゃう外国人の男、少なくない・・・
ほとんど同時に三人に虫がついて?!大騒ぎになったことがあったけど、こればっかりは・・ 有効な防虫剤ないし・・
by euridice (2005-09-07 09:08) 

Sardanapalus

>>「トマス(トマゾ)って誰??」
>私も、意味がわからなかったんですよ
あ、そうだったんですか。もうご存知かもしれませんが、キリストの復活した瞬間に立ち会えなかった聖人トマス(トマゾ)が、目の前にいる人物を復活したキリスト本人だと信じられない、本人なら磔刑にされたときの傷を見せて欲しい、と言ったという話があるんですよ。で、実際に傷口を確認した後でようやくトマスはその人物をキリスト本人だと信じたということから、聖トマスは疑り深い聖人として有名な訳なんです。他にもいくつか彼の疑り深さを示す話があるはずですが、忘れました(^_^;)西洋美術では結構有名な題材で、「聖トマスの不信(懐疑)」というタイトルの絵や彫刻がいっぱいあります。有名なのはカラヴァッジョのもの↓でしょうか。
http://www.abcgallery.com/C/caravaggio/caravaggio34.JPG
西洋の大きな美術館には1枚は必ずあると思います。時々この絵のようにキリストのわき腹にあいた傷口に思いっきり指を突っ込んでいるものもあって、なかなか素敵に気持ち悪いです(笑)
by Sardanapalus (2005-09-08 01:33) 

keyaki

>Sardanapalus さん
そうそうその通りなんです。
原文では、「私は、聖トマスの弟子(信奉者)です」だけだったので、その話を教えてもらって、"疑り深い"という文言を付け加えてみました。
聖トマスもいろいろいるし、ここに突然聖人の名前を言われても意味わかんないなぁ、もしかしたら音楽に関係してるの??と悩んで、知っていそうな人にお尋ねしたんですよ。
日本だと、たとえば、気が短いというときに、「私は信長だからね」とか、じっくり時を待つタイプの人のことを「あいつは、家康だからな」というようなものでしょうね。言わないって?? でも、万一言われてもわかりますよね。(笑

無謀にも好奇心だけではじめた訳ですが、いろいろ勉強になります、ナントカの手習いでございますよ。ホホホ
リンク先がForbiddenですが、私もその絵を探してみてみます。
by keyaki (2005-09-08 08:59) 

Sardanapalus

>原文では、「私は、聖トマスの弟子(信奉者)です」だけだった
おお、そりゃよっぽどキリスト教に興味が無ければ訳が分からないですね(笑)楽しい翻訳ありがとうございます♪毎回楽しく読ませてもらってますよ~。

>「私は信長だからね」とか、「あいつは、家康だからな」
分かりやすい!聖人か歴史上の人物かの差はありますけど、雰囲気的には正にそういう感じでしょう。今度イギリス人に「トマス」ネタ使って様子見てみますね(笑)

>リンク先がForbidden
あらら失礼しました!m(_ _)mWinだと見れるんですよ。Macでは直リンは駄目なんですね。画像の載っているページを貼っておきます。食事前は見ないほうがいいかも(^_^;)です。
http://www.abcgallery.com/C/caravaggio/caravaggio34.html
by Sardanapalus (2005-09-09 07:13) 

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