SSブログ

RRのエピソード:声楽授業(14)ボローニャ音楽院-3- [ L.Magiera著:RR]

8月28日の記事の続き。
ボローニャ音楽院の教授として勤務していたレオーネ・マジエラ(26才)は、学長に、ボローニャの街で有名な音楽愛好家チェーザレ・ライモンディの息子ルッジェーロ(19才)の声楽教師をするように命令された上、彼の才能を潰さないように念を押されます。

(私=レオーネ・マジエラ)
次の木曜日は、週の二回目の声楽の授業だった。月曜日に教授会で中断した女生徒アーダのレッスンの続きから始まった。
私は、彼女に激怒して言った。
「私が、あなたに歌わせる度に、私に同じことを言わせたいのですか?"Voi che sapete"のように簡単な一節を台無しにしないで下さい。すでにあなたは、3年目ですよ。そして、いつも"Caro mio ben""Amarilli"だけ歌ってるわけにはいかないでしょう。」
「でも、マエストロ、モーツァルトを歌うのはとても難しいということを聞いています。」
「どうか、話を一般化しないで下さい。モーツァルトを歌うことは難しいですが、"Voi che sapete"は、とても簡単な一節です。それに、テレサ・ベルガンサのようにそれを歌うことを決してあなたに要求していません。あなたが、野獣のような感じで、調子はずれに歌わなければ、私は満足ですよ!あなたが、アズチューナの語りを歌わなければならないような、呼吸の大げさな押しを使って歌わないで下さい」
テレサ・ベルガンサって誰ですか?マエストロ」
アーダの無知は、私をいつもいらだたせた。
「現在の最も素晴しい歌手の一人です。若いけれども、すでにモーツァルトの偉大なスペシャリストで、正にケルビーノ役の第一人者です。ちょっと、私に言ってみて下さい、どんなメゾソプラノを知っていますか? たとえば、ジュリエッタ・シミオナートを知っていますか?」
「数年前にLugoでトスカを歌っているのを聴いたことがあると思います。、」
アーダは厚かましくも思い切って言ってのけた。(ご存知だと思いますが、トスカはソプラノの役です)
"Pel cielo l'anima mia si desta"
怒りが爆発して、思わず口走ったが、シェイクスピアの引用は、少しもアーダを困惑させなかった。
誰かがドアをノックしたことは、私を冷静にした。

私は、この大柄な若者の力強いノックに反して、そーっと静かにドアを開けたことに驚いた。おずおずと現れたのは、なんとルッジェーロ・ライモンディだった。
彼は、背が高く頑丈な人、すなわちアメフトの選手の体つきをしていた。それに反して、柔和でロマンチックな顔つきは、若いウェルテルのように白く青ざめていた。私は、このコントラストは、上品で優雅な男性として逆らえない魅力を発揮しているに違いないと思った。実際に、数分後、横目でチラッと見ると、こっそりと化粧と髪を夢中でチェックしているアーダとブルーナには吃驚した。

「あなたのクラスに参加することを許可して下さってありがとうございます。」
ルッジェーロは口を開いた。
「入学登録が締め切られているのに私を受け入れて下さったご親切を心から感謝します。」
と更に付け加えた。非常に礼儀正しく格式張っていて、声楽の生徒にはめったにない的確な言葉で、自分の気持ちを言い表した。
「この教室を知っていましたか?」と私は尋ねた。
「いいえ、ここに来たのは初めてです。壁に掛けられているロッシーニ、ドニゼッティ、レスピーギ・・・このような音楽家達を見られてとても感激しています。それに、ここは、ワーグナーのスペシャリストであり、また、ボイトの「メフィストフェレ」のすばらしいファウストでもあったファエンツァ出身の有名なテノール、アントニオ・メランドリの教室でした。それはそうと、「メフィストフェレ」といえば、なんて美しいBorghi-Mamoの肖像画でしょう!ほんとうに美しい女性ですね!」
私は、ちょっと嫉妬を感じた。 ー続くー
(ルッジェーロは本の虫だったそうですから、その知識は並ではなかったようですね)

※テレサ・ベルガンサ:1935.03.16- スペイン 
※Pel cielo! l'anima mia si desta!: 「オテロ」三幕のデズデモナがハンカチをなくしたと言った時のオテロの叫び
※アントニオ・メランドリ:1891.02.11-1970.10 イタリア テノール
※ Borghi-Mamo:ボイトの「メフィストフェレ」の初演のソプラノ歌手


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 2

euridice

>こっそりと化粧と髪を夢中でチェックしているアーダとブルーナ
男子学生はお初? それとも・・
by euridice (2005-09-02 10:14) 

keyaki

そのへんの普通の男子学生とは違うと思います。とにかく目だっていたわけですから。まさにミケランジェロの彫像のように美しかったんでしょうね。彼にドン・ジョヴァンニをやらせたいというプロデューサーや演出家がいたわけですからね、ああいう人達の見る目は確かですよね。
by keyaki (2005-09-05 14:31) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。