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ベルリンの「コジ」をなぜキャンセルしたか! [コジ・ファン・トゥッテ]

前の記事《執念のドン・アルフォンソ"COSI` FAN TUTTE"》の一覧表にも載せましたが、RRは、2000年6月にベルリンで、COSÌに出演するはずでしたが、キャンセルしています。理由は明らかにされていませんでしたが、演出絡みではないかと予想していました。(2月13日の記事)
フランスの雑誌「Classica−Repertoire」の7-8月号にライモンディのインタビューが掲載され、そのことについて、本人が話しているという情報をコメント(7月18日)に助六さんが書いて下さいました。
まずは、インタビューのその部分をご紹介します。

RR:ベルリンの「コジ」は、舞台を60年代米のヒッピー部落に移し、衣装は花模様とかいったものでした。この作品をこうした文脈に移したら、「コジ」の基礎にある緊張関係や道徳的禁忌は全て事実上消え失せてしまいます。少量の大麻で、全ての問題は解決するという訳ですよ。この種のセンセーショナリズムが段々受けつつあります。

−練習の半ばで降板されたのですか?

RR:そうです。契約を解除しました。何で参加したくないか説明しましてね。幸い訴えられなかったですけどね。
「Classica−Repertoire」第74号、05年7−8月合併号/インタビュアー:ジェレミー・ルソー(Jeremie Rousseau)/05年3月31日、チューリッヒにて
このインタビュー記事は助六さんからの情報で、日本語に訳して教えてくださいました。本当にありがとうございます。長年の疑問が解決しました。


RRも「この種のセンセーショナリズムが段々受けつつあります」と指摘しているように、もちろんこの演出を絶賛している音楽評論家もいますし、興行的にも大成功だったようです。
私も偶然にもこのDVDを、ライモンディがキャンセルした公演ということを知らないで、買いました。(新国で見た《神々の黄昏》のグンター役のロマン・トレーケルがドン・アルフォンソだったからなんですけど・・・)
「読み替え」だけでなく設定が奇抜、その後のデーリエ演出の《トゥーランドット》猿の惑星《リゴレット》に比べれば、着ぐるみを着せられたりするわけでもなく、序の口で、ライモンディがドン・アルフォンソをやっても見た目は大丈夫だったと思います。(彼は、スーツ、ネクタイ姿も似合いますから)
以下、デーリエのことを言っているのではありませんが、まさにこういうことだったのでしょう。
『残念なことに、役について、長期間、一生懸命考えてきた歌手たちが、最初のリハーサルで、演出家が違う考えを持っていることを発見することが、ままある。演出家が、知的な人間なら、議論や意見の交換が可能である。そうでない場合は、降参するか辞めるかしなければならない』(1993年イギリスオペラ雑誌記事より)
デーリエは、すでにオペラの演出を二度も経験済みで、三回目の《猿の惑星リゴレット》の時でさえ、「私はオペラを知りません」と言ったそうです。これが、ライモンディのキャンセルの理由ではないか・・・と思いました。
デーリエは、謙遜して「オペラを知らない」と言っているのではなくて、なにをやっても文句はいわないでねという免罪符にしているのではないかと思います。最初から、歌手との話し合いは拒否という態度ですね。
オペラは、総合芸術と言われますが、中には、演出なんかどうでもいい、音楽の邪魔にならなければいいとか、劇場に行っても目をつぶって聴くから・・・なんて方もいたりして、私には摩訶不思議としかいいようがありません。 私にとってオペラは音楽+演劇で、演劇だけより、音楽だけより、楽しめるものなんです。ですから相乗効果の期待できない演出は勘弁ね・・です。

前にも書きましたが、再度、ライモンディが演出について語っている一部をご紹介します。
「演出の現代的特徴は、演出家が人物をどう扱うかという点に示されますが、舞台では作曲者が意図した雰囲気が実行されるべきです。しかし、今日、多くの演出が確かな価値と様式を、簡単に無視しています。なぜなら、彼らは、だれもまだ見たことがないものを見せたいと思うからです。これは知性偏重のもつ性質です。私にとっては、思考の自慰行為以上のものではありません」

◆「いったい何人の演出家がオペラを尊敬し、同時に、時代設定や衣装を変更する事なく作品の新しい読み方を見い出せるでしょうか。」


追記)このインタビューで、リハーサル途中のキャンセルということが判明したわけです。つまりRRは、出演するつもりだったわけですから、デーリエがRRを納得させることができていたら、と残念です。(2005.7.21)
※Doris Do¨rrie(1955.5.26)ドゥリー、デリエ、デーリエ 
「Doerrieの発音は、本人に確認した方の報告ですと「デリー」で、アクセントはアタマのデにあるそうです。」という助六さんのご指摘ですが、DVDの解説書の"デーリエ"を使いました。
関連記事:◆2005.2.13《「コジ ファン トゥッテ」三度目の正直》 ◆2005.2.13《執念のドン・アルフォンソ"COSI` FAN TUTTE"》


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euridice

>役について、長期間、一生懸命考えてきた歌手たちが、最初のリハーサルで、演出家が違う考えを持っていることを発見する

P.ホフマンも伝記で、同じことを言っているのがおもしろいです。

「歌手が自分の役について研究すればテンポや解釈に関して自分自身の考えを持つようになるのは当然のこと。そこに完全に別の解釈の指揮者と演出家が登場するわけですから、歌手としては、そのギャップを調整するのが大変なわけで、これがオペラ歌手という職業のもっとも難しいところだとホフマンは考えています。しかし、ありがたいことに、市場価値の上昇に伴って、不愉快になることは少なくなり、自分の考えが通せることが多くなるということです。もちろん応分のストレスは甘受するしかないのですが。」

だいぶ前の記事ですけど、TBしました。
by euridice (2005-07-21 00:38) 

助六

雑誌の表紙まで早速アップされているのにはビックリ!「プロ」のお仕事ですね。
世界で最も信頼性の高いRR全上演記録・ディスコグラフィー作成に挑戦されたら如何でしょう。泥沼でしょうが、カラスについては一応出来ているし、クライバーやアバドについてはネットで見事な成果を公開されている方がおられますから無理ではないかも知れません。歌手は指揮者よりキャンセルとかが多くて難しいし、RRはカラスよりキャリアも長いから大仕事でしょうけど。
by 助六 (2005-07-21 07:10) 

euridice

keyakiさんの想像が大当たりだったわけですね^^;

言わずもがなですが、私は純粋に観て聴いて楽しむだけの素人だし、このオペラはいまのところよくわからない部類のままです。市民オペラと新国で生舞台を観ました。劇場で観る限り、その間は楽しいですが、思い入れを持つには至っていません。ですから、
>「コジ」の基礎にある緊張関係や道徳的禁忌は全て事実上消え失せて
いるかどうか・・・ >「コジ」の基礎 自体を理解していないので、「基礎」が「消え失せている」かどうかわかりません。

二度の生舞台、その他けっこう沢山の映像と比べて、その辺りの違いを直感的に感じることはなかったような・・・ 「少量の大麻で、全ての問題は解決する」ってアピールしてる演出とも思いませんでした。(見えているものと、字幕の言葉のずれがけっこうきついのは、ちょっとしんどかったです)

歌手と演出家の間で良いコミュニケーションができず、信頼関係が築けなかったんでしょうねぇ・・・ RRがアルフォンソじゃなかったのは残念だけど、トレーケルが観られたのは、よかったってことです。どっちにしてもkeyakiさんはこのDVDを買ったってことね(^。^
by euridice (2005-07-21 09:59) 

keyaki

>助六さん
たまたまネットで見つけました。ライモンディも5年もたったので、話したんでしょうね。キャンセルの本当の理由は隠されることが多いですからね。
>「プロ」のお仕事
ネット検索のプロかな?
アバド資料館は私も利用させて頂いてます。本職がお忙しい中、本当に素晴しいサイトですね。
歌手の場合は、ドミンゴのように彼自身がメモ魔でしたらいいのでしょうが、難しいですね。でもそれだから、新しい発見もあるということでしょうか。
今後、ライモンディもパリでのお仕事も解禁されたようですので、またなにか情報がありましたらよろしくお願いします。

>euridiceさん
TBありがとうございます。
この演出は評判いいんだと思いますよ。私はトレーケル目当てで買いましたが、ドン・アルフォンソは、普通でしたから、なんでキャンセル?と思いました。恐らく、デーリエがライモンディを納得させられなかったということにつきるとおもいます。
>「少量の大麻で、全ての問題は解決する」ってアピールしてる演出とも思いませんでした。
ライモンディがキャンセルしてちょっと内容が変わったという可能性もありますよね。
私の感想は、フィオルディリージもドラベルラも見た目と演技が露骨すぎて、歌詞がそらぞらしいく感じたので、ライモンディの説明になるほど・・と思いました。
(ライモンディがキャンセルした公演というのはその後知ったわけですから、偏見なしで見てます)
リハーサルに入ってキャンセルしたのは、ライモンディも最初はやる気があったということですから、演出家が説明責任を果たせなかった・・・ということでしょうか。
だから、訴えられなかったのかもしれない???
by keyaki (2005-07-21 10:44) 

ヴァラリン

デーリエ@トゥーランドットですが(後から知ったことですが)駆け出し歌手のヴィノグラドフ氏、このプレミエのメンバーの一員です(^^;
(ティムール@ミイラ男…リンク先には残念ながら写真が出てないので、押し付けリンクしちゃいます)
http://www.geocities.jp/traeumereienvalencienne/image/timur.JPG

この写真、以前からネットで見ることが出来たのですが、リンデンで生写真を売ってましたので、買ってきました。(←ボエーム見に行ったくせに、この写真一枚買ってきたバカ者です…売り子のお姉さんがクスクス笑ってました)
ボディーラインがアラワになっているので、ちょっとこっ恥ずかしくて、なかなか正視できずにいるのですが(///。///;えいっと、まじまじと見てみると、目と鼻と口以外は、全てグルグル…ですね。

ですので、着ぐるみピンポンパンくんたちに負けず劣らず、かなりのハンデはあったんじゃないかと推察してますが、歌の方は私が調べた範囲では、お陰様で好意的な評価を頂いてます。そういう評価しか目に留まらなかったのかもしれmせん(^。^;
去年、再演された時にも何度か出演してます。
駆け出し歌手ですから、何でも来い!状態で仕事を引き受けていると思います。自分で選べる立場ではないでしょうしね。
こういう歌手に関心を持ったのも、何かの縁ですから、暖かく見守って行こうと決めてます。今後どんな格好で出てこようともね。メランコリーモード脱出したので、結構強気ですねー、今の発言(^^;
(最も、既にここまでやってれば、後は何が来ても怖くないですね^^;)

ところで本題です。これが言いたくてやってきたんでした(^^;
えーと、只今私の本家サイトのリンク集を見直しているのですが、この機会にkeyakiさんの本宅をリンクさせて頂きたいのですが、如何でしょうか?
ご検討して下さると嬉しいです。宜しくお願いします。
いつもカキコが長くなってごめんなさい。
by ヴァラリン (2005-07-22 01:38) 

keyaki

ヴァラリンさん
>ティムール@ミイラ男
私もヴィノ氏が横たわっている写真がないなぁ・・と思いつつリンクしました。
その写真だけ一枚買っちゃった・・・・ファンならではです、ファンの鏡です。ティムールは最初から最後までミイラ男だったんでしょうか?ピンポンパンは、ちゃんと顔を出してバイクに乗ってますよね。それにしても帽子をかぶっているだけでも、歌いにくいというのに、それに、オケの音は、マイクでも仕込んで聴いていいるのかしらネ。デーリエ女史も罪作りですよ、まったくぅ。あんなヤクザデブのカラフのおとっつぁんが、何故ミイラ男なんじゃぁーーー。説明しなさい!ですよね。

>本宅をリンク
私の方にはリンク集作ってないのですが、それでもよろしければ、よろしくお願いします。
by keyaki (2005-07-22 02:10) 

ヴァラリン

>ティムールは最初から最後までミイラ男だったんでしょうか?

だと思いますよ~~一幕ではあの包帯の上から、更に銀色に輝くマントを羽織っていたそうですから(^^;
一幕では骸骨集団にいたぶられ、三幕ではピンポンパンくんたちに拷問され…で、かなーり、ハードな役だったみたいですね(^。^;

>カラフのおとっつぁんが、何故ミイラ男なんじゃぁーーー

はは^^;私としてはあのカラフこそ、顔グルグルのミイラになって欲しかったかも(笑)
いつか出世したあかつきには、この演出についてどう思っていたか?!とか、誰かインタビューしてくれるかもしれません。その時、全貌が明らかになるかも…ですね(^。^;

>>リンク
ありがとうございます。作業が完了したら、改めてご報告に参りますね。
by ヴァラリン (2005-07-22 13:21) 

ヴァラリン

keyakiさん、リンク貼らせて頂きましたので、ご報告に上がりました。
今後とも宜しくお願いしますね。
by ヴァラリン (2005-07-23 07:42) 

Kinox

Madokakipさまのサイトでトラックバックについても詳しく教えて、本当にありがとうございます。是非Keyakiさまのサイトをブックマークさせてくださいませ!
by Kinox (2011-12-17 16:12) 

keyaki

Kinoxさん
ブックマークよろしくお願いします。私も読んでいるブログ(RSS)に登録させていただきますね。
by keyaki (2011-12-18 00:13) 

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